5.6 巨乳同士(最終話)

 校内に入った僕ら。

「なんだ、あれ」

 人が逃げて来る校庭の方に向かうと、空へと立ち上る白い渦。

 あたりをどことなく甘い匂いが包んでいた。

 校庭の中心にいるのは、身体から淡い光を放つ存在。

 両手を広げ、まるで渦を操っているみたいに。

 ──全裸だ。そして、風船さんに負けず劣らず、大きい。

「でかいな」

 仲間意識と、悔しさで微妙な表情の風船さん。

「きゃっ」

 頭上から白い液体が降りかかって来た。

「わ、ひどい」

 ブレザーの袖の間、ブラウスがぴったりと肌に張り付いて、下着のラインが浮かんでいる。

 唇を伝ってくる液体が口に入る。

「牛乳?」

 牛乳っぽい味だった。

「見ないで」

 ずぶぬれの自分の身体を抱くノコ。

「忘れかけてたのに、言うからみちゃうじゃん」

「二人とも何呑気なことやってるの?」

 ブレザーを脱いで僕に放り投げて来る風船さん。勢いがいい。

「何となくだけど、ここは私の出番な気がする」

 そういうと、ミルクの雨の中を歩み出す。

「ちょ、危ないよ」

 逃げる人々の間をすり抜けて。今も空には竜巻に飲まれた人々が舞っているというのに。

 仕方ないので追いかける。

「ノコはこれ持って非難しておいて」

 風船さんのブレザーはノコに託して。

「私も行きたい」

「危ないよ?」

「でも、喜入君も危ないじゃん」

「……生きて帰ったら、キスしよう」

「え、やだ」

 トコトコ歩み寄って来て──まさかと思ったら唇が近づいて来た。

「別れる前にしたい」

 唇を離したノコの少し照れて赤くなった顔は、忘れられないぐらい可愛かった。

「私も行く」

 結局ついて来た。

「あ、サク」

 逃げ惑う人々の中に見知った人を見つける。

「サクも逃げないで、立ち向かおうよ」

「嫌なやつらに捕まったな」

 ノコに手を掴まれて、一緒に校庭の中心へ。

「うち何の役にも立たないと思うよ」

「僕らも多分そうだよ」

 こんな嵐の中、何故か風船さんだけあんな先に進めてる。選ばれてるのは彼女なんだろう。

「僕らは傍らで見てる友達」

 今回は彼女が主人公だ。

「余計なことを言うために」

 渦の中心へと近づくほどに、押し返す風が強くなっている。

「もう、風船ちゃん、敵のとこに着いちゃいそうだよ」

 ほんとだ、敵の足元にたどり着いてる。風船さんを見下ろす敵。

 何か話してる。

「くそっ、中々進めない」

 風が吹き荒れていた。サクを盾にして進む僕ら。

「なんで最後に合流しただけなのに、先人切らされてるの!」

「こないだも先頭だったろ!」

「これ、後ろから私のスカートの中、丸見えじゃない?」

「気にすんな!」

「見てんじゃん!」

「かわいいよ」

「何でも可愛いですむと思うなよ!」

「ノコもそう思うだろ?」

「そうだね。可愛い」

「あ、なんか二人が抱き合ってるよ!」

 風船さんが敵をひしと抱きしめて、敵もゆっくりとそれに応じている。

「空晴れてきた!」

 吹き荒れていた風が収まって、たなびいていた髪が、服の袖が降りて行く。

「解決しちゃったじゃん!」

「なんか良く分かんないけど、巨乳同士で通じ合うものがあったんだろうな」

 空を見れば、色んなものが竜巻に連れ去られて行って、凄く澄んでいる。

 実のところまあまあ恐怖だったので、何事もなく解決してよかった。

「無事に戻れそうだから、キスしようよ」

 ノコに言われる。

「あ、お前ら! 私のいる前でするな!」

「風船さんみたいなこと言うなよ」

「サクちゃんは風船ちゃんと付き合えば。気が合いそう」

「未来をにおわすな! あの巨乳野郎も現れたことだし! ウチラで三角関係になったら、地獄絵図だろ!」

「僕は見たいぞ」

「変態?」

 ノコが見上げて来る。

「違う、冗談だ」

「本当? 別に、まあ本当に思っててもいいけど。そしたら、私も三人に加わって上げるから見てて。冗談だけど」

「冗談で良かった。風船さんがノコに触れてるとこなんて見たくない」

「おい、そこのオマエ! 今、私のこと何か悪く言っただろ!」

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気体に胸をふくらます 堀と堀 @poli_cho_poli

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