5.2 彼女と友人に挟まれて
「ああ……!」
凄い衝撃で目が覚めたのと共に
「……しまった」
布団を捲る。朝の冷気が侵入して来る。僕の寝巻、押し付けていた風船さんの灰色の部屋着にも染みが付いている。まだ眠っていてくれればいいのに、
「……どうしたの?」
目を覚ました風船さん。
「いや、その……あの、ごめん」
眠そうにしてたけど、立ち込めるにおいに風船さんも気づいたみたいだった。
「まさかこんな境遇で、イカ臭いというものを知ることになるとは思わなかったよ」
それから起き上がって
「えー、私のケツは無事?」
自分の部屋着のズボンを触る。
「染みの黒点が、パンダのしっぽみたいになってる」
「可愛く言わなくていいよ」
その後僕はシャワーを浴び、風船さんは僕に胸を膨らまされるのを待っていたので、また遅い時間の登校だ。
「そもそも何かハプニングがあると遅刻しちゃうような時間に起きるウチラが悪いよね」
僕らしかいない通学路を歩いていると、
「あ、喜入君」
道が合流するところで、向こうから来たのはノコだった。
「じゃあ私は先に行ってるね」
「逃げるの早いって」
腕を掴んで止める。
「気を利かせてあげてるのに……じゃあ、二人の邪魔をする方向に切り替えよう」
「風船ちゃんも。二人とも遅いね。私も遅いけど」
二人が三人になった。
「二人はもうキスとかしたの?」
「邪魔して来るなよ」
「こういう会話を振って、二人をドキドキさせるのは友人である私の務めでしょ?」
「まだしてないよ」
とノコ。
「平然とではなく、頬を赤らめて『ま、まだだよ』って感じで答えて欲しかった。それに対して、喜入君は『この後しよう』って答えて。それに対してノコちゃんは『わーい』って答えて──良かったじゃん、喜入君。ノコちゃんも喜んでる」
「なんで風船さんの中のノコはそんなに馬鹿っぽいんだ」
「ノコちゃん、成績ワースト10で張り出されてたよね?」
「ワーストじゃなくてトップ発表しようぜ」
「見せしめにすることで、勉強熱を高めてる」
「勉強はできないけど、私、風船ちゃんみたいに馬鹿じゃない」
「俺もそう思う」
「ふ、精々そうやって強がっているがいいさ。あなたたちより成績の良い私は、可愛い子がいっぱいいる私大に行って、可愛い大学生活を過ごすから。君たちは所詮──そうか、その手があったか! 今、恋愛にうつつを抜かすのではなく、可愛い子がいっぱいいる私大に行くために、可愛く勉強してればいいじゃないか! ああ、でも勉強するのは面倒くさいから、いいや。で、何の話だっけ?」
「風船さんはもうキスとかしたの?」
「私は自分の二の腕にするぐらいだよ──って、変な性癖を言わせるではない! 成績の話をしていたのに、性癖の話をさせられてしまった」
「先行ってていいよ」
「私だけ仲間外れにしないで! あからさまに」
「僕らは少し急用が出来たから」
「あからさまに言わないと、付いてくよ?」
「着いたよ」
「ああ、学校に着いてしまった!」
「着いたけど……どうしたんだろう?」
学校前の道に救急車が止まっている。パトカーに消防車、それらが何台も。
救急車に運び込まれる生徒、先生たち。煙が立ち上り、煤で顔が汚れてる。
「おしゃべりに夢中でここに来るまで全然気づかなかったよ」
見上げれば木々の向こうに燃える校舎が見える。
「あ、あれ、恭子先生じゃない。チョッピーもだ」
救急車に運び込まれていくのは、ブロンドの先生と軍服の女性。
「何でチョッピーが……?」
中学校の地下にいるはずなのに。
「なんか、皆、びちょびちょだし」
生徒たちの制服が濡れている。髪についた液体は微かに白っぽい気がする。
「何が起きたんだろう」
テレビ局のカメラも来てる。レポーターの男性がカメラに向かって話す。
「美顔島ディストピア高校で行われていた体育祭で、人間闘牛の競技中に本物の牛が乱入し、生徒たちを負傷させました。詳しい被害状況はまだ分かりませんが、百名を超える生徒と先生が負傷した模様です」
「……今日って体育祭だったんだ」
「縁がなさ過ぎて知らなかった。ノコちゃん知ってた?」
「私は、地下にとらわれてたから。聞いたことない」
「てか、冬にやるの? 寒くない?」
「転んだりしたら凄い痛そう」
「ね、知ってても来なかった」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます