5. 巨乳牧場

5.1 可愛くて、かわいくて、カワイイ

「私、ソファーで寝るわ。週末にはベッド買いに行こ」

 そう言うと風船さんは、枕を抱えて部屋を出て行く。

「彼女持ちの男とは一緒に寝てられない。それに、今は顔も見たくないよ。嫉妬で怒り狂ってしまうから」

「心が狭い」

「あの狭いベッドともおさらば」

 颯爽と歩こうとするけど、運動神経が悪くて変なモデル歩きみたい。

「仲間だと思ってたのに」

 入り口で振り向くと、捨て台詞を残して去っていく。

「……」

 電気を消して一人でベッドに入る。うとうとしてたら

「やっぱ、寒いから入れて」

 暗闇に立っていたのでビックリする。

「……何、化け物で見るような顔して」

「髪降ろしてるから」

「説明になってるけど、説明しないで欲しかったな。こんなに可愛い女の子がベット脇に立ってたら、嬉々として隣を開けるぐらいの、単純さを持ちなさい」

「……どうぞ」

 機嫌が悪そうなので隣を開ける。

「何か、風船さんの言うカワイイは『可愛い』だけど、世間の言うカワイイは『かわいい』だと思うよ」

「私が時代遅れだと言いたいの?」

「カワイイに対して余裕を感じられない」

「彼女・彼等の方がよっぽど必死に追い求めてると思うけど……そうね、一度でもカワイイと言われることが有ったら、私も違ったかも……」

「ブス」

「……今のは貴方だけでも、カワイイと言ってくれる流れだったはず……」

「嘘はつけないからね」

「喜入君はベッド上の私に対して容赦がなさすぎるよ……彼女に対してもそんな態度だったら、やらせてくれるものもやらせてもらえないよ?」

「別に構わないさ」

「いい? あの程度の女の子なら、カワイイって言っとけば、すぐ股を開く。褒められ慣れてないだろうから」

「え、嘘。ノコ、かわいくない?」

「整ってはいるけど、陰気そう。洋館にとらわれた美少女って感じ」

「凄い褒めてるじゃん。洋館にとらわれた美少女」

「男好きしそうってこと……貴方みたいな、羊羹ようかんを粒あんに浸して食べるような男にね。美少女を洋館に閉じ込めたってつまらないわ。それって、童顔を貧乳にひっつけるようなことじゃない?」

「……童顔を巨乳に引っ付けようとする君が、なによりのステレオタイプだよ」

「最高の守りを誇るギャップ城も、一夜にして燃えたというじゃない──この戦乱の世、何が起こるか分からない。先の読めなさが戦の楽しみでもあるわね」

「僕は君の書いた文章は読めないと思う」

「こないだ返って来た、現代文のテストの答案に『?』って書かれてた」

「それは悲しかったね……」

 後ろから抱きしめる。

「あなたの動きも読めないわ」

「何が起こるか分からない未来も、きっと二人なら歩んでいけるよ」

「抱きしめてくる感じ、普通にセクハラだと思うわ」

「家族じゃないか」

「そっか、うちら一応家族なのか……」

 血はつながってないけど、戸籍上。

「このまま目覚めたらきっと朝には、あなたの硬くなったペニっさんを押し付けられているわ。まるで、あの日のジョン・スノウみたいに……彼よりも大分小さいだろうけど。いいわ、あなたのありのままを受け止めてあげる。レディゴー、アナスタシアと雪の王子。この胸の弾痕は君にも触らせられない……ああ、これはFifty Shades of Grey じゃなくて 50 Cent & Dr.Dreだった。センチとDaveとかも見て見たいな……喜入君? 喜入君? ああ、もう寝てしまったのね。なら私も、つかの間の眠りについてしまうわ。おやすみ……おやすみ……ああ、行かないで! あなたは私が幼い時失った母上! 実際、父子家庭だもんね。ああ、懐かしいな。ママ、天国でも元気にしてるかな。色々大変だったけど、私は今こうして、同じベッドで寝る相手も見つけて、元気にやってます。彼のアソコも元気です。げへへ。ああ……やめて……喜入君! 背後から私の首を絞めようとしないで……! 本当に、お休みしちゃう! おやすみ……!」



「ああ……!」

 凄い衝撃で目が覚めた。

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