4.10 嗚咽
チーン。エレベーターが止まって扉が開く。
光が見えればいいものの、同じような景色が広がっている。むしろ明かりが全くついてなくて暗い。目が慣れて見えるようになってきたからいいものの。
一度背中から降ろしていたノコが一人で歩きだしたので
「無理しないで」
体を支えようとするけど、
「大丈夫」
と止めて来る。
「目が覚めてきた」
そして四人で歩きだすと、股鉄の扉に行き当たった。
「悪い予感がするから開けないでおく?」
「でも、出口かもよ?」
「さっきの曲がり角まで引き返すのも面倒だから、一応開けてみようよ」
というわけでサクが先頭になって取っ手を掴む。
キシリと音を立てて開くと──
部屋の中央で、腕を組んだ女が椅子に腰かけている。迷彩柄のズボンをはいて、上はタンクトップ。サングラスをかけている。足をすごい開いて椅子に座っているのも……軍曹って感じがする。
「私の電流を感じたいか?」
「いえ」
「体にプラグを繋げるから動かないで待っていてくれるか」
「そっちが動いた、こっちも逃げます」
「そうか、ではお互いに動かないでいよう」
「……戻ってもいいですか」
「いや、もう少し待っているがいい」
軍曹が言うと、後ろから足音がした
「やっと、追いついた」
息を切らして、膝に手を突く恭子。顔を上げると……
「久しいな」
もともと大きい目が見開かれる。
「教官」
「ソナタが流した電流の鼓動、遠くから聞いていたよ」
「……そっか、思ったより浅いところにいたんですね」
「しかし、全く愛がなかったな。私がソナタに教えたのは、快感であって、人に罰を与えるための電流ではない」
「……」
「いつ道を踏み間違えた?」
サングラスの向こうの目は見えないが、固い口調だった。
一瞬ひるんでいた、恭子さんはキリッとした目をする。子どもが起こっているような、どこか幼い表情。
「私、先生の電流よりも気持ちいいものを見つけたんです」
「セックスか?」
「せ……知ってたんですか?」
「もちろん。それなりに良い歳だからな」
それから生徒を諭すように語り始める。
「試したが、私は電流の方が好きだった。そのことを人に押し付けるつもりはないよ。君が他の者の方が良いというなら、私はそれでいい。たまたま、ここに落ちて来たから電流を流しただけで、あの時──君が痛がるだけ痛がって、電流を好まないまま去るなら、それはそれでよかった。今の君は、自分の好きなもの良さを他人にも押し付けようとして、躍起になりすぎている。いいか? 君を牢屋に入れたような人間たちと、君は分かり合えたか? 元々、人間なんてそんなものさ。同じものを楽しめるなら楽しめばいいし、そうじゃないなら──自分が楽しめていればいいじゃないか。自分が例え、他人には理解されがたい癖を持っていようとも、堂々と自分だけ楽しめばいいのさ。理解されようと躍起になることはない。一人が寂しくなる時も来るかもしれないが、いつか分かり合える友達と出会えるさ──私が恭子と出会えたようにね」
意外といっぱい喋る人だった。
「……教官」
椅子から立ち上がった教官。
「チョッピーと呼んでくれ。私が君の友達だ」
恭子の身体をぎゅっと抱きしめる。
「う……」
その胸に顔を押し付ける恭子。
嗚咽が地下室に広がった。
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