4.8 授業

 壁のスイッチを押すと蛍光灯の明かりがついた。チカチカと点滅してやがて安定する。

 部屋が明るくなると、事態の異様さがよりわかる。こんな予備校の教室みたいな明るい空間よりも、薄暗闇の方がよほどよく馴染む。

 恭子はプロジェクターのスイッチを切る。それから、少女の身体に付けられた何かを取った。ケーブルをまとめて学習机に置く。

「授業を始める前に、まずはお互いに自己紹介しないとね。ノコちゃん」

 恭子は呼びかけと共に、手元のスイッチを押した。

「うっ……」

 がくがくと少女の身体が震え、顔を上げて恭子さんを見た。

「ノコちゃん、お友達に自己紹介して」

「……じこ、しょうかい?」

「うん、この子たちに」

 僕らを虚ろなまなざしで見る。

「……イリノ・ノコです」

「好きなこととかは?」

 いつもの笑みを浮かべて、ノコに続きを促す。

「好きなこと……は、えっちなことです」

 虚ろげなまなざし。今にも消え入りそうな声、明らかに正常じゃない。

「今日もいっぱい、恭子さんに……してもらいたいです」

「偉い、良く言えました」

 少女に歩み寄ると

「ご褒美です」

 芸をした飼い犬に餌をやるように、少女の胸元を摘まむ。

「あぁ……」

 熱っぽい息を漏らす少女。

「それじゃあ、時間もないし。授業を始めましょうか。皆全裸に着替えて」

 体操服を忘れた罪だろうか。

 結局また、こないだのカフェみたいなことになるんだなと思いながら……。

「え、その……先生、この子……どういうことですか?」

 部屋に入ってから言葉少なだった風船さんが、やっと疑問を口にする。

「この子は、居残りで補習中なの。物分かりが悪くて、私の教えを中々理解してくれないから」

「いや……その……」

 明らかに監禁されている様子の少女。

「ダメ……ですよね」

 サクさんも先ほどまでの幻覚が覚めたみたいに、先生を怯える目で見る。

「ダメじゃないよ。だって、この子のためだもん。快感を理解出来れば人生が楽しくなる。私がそうだったように。ね?」

 ノコに賛同を求めるが、また虚ろなまなざしに戻っていた。

「ね!!」

 手元のスイッチを力強く推す。今度はがくがくと、さっきよりも強くノコの身体が震える。

「う、うっ──!」

 身を悶え、口から唾液が零れ落ちる。

 スイッチを離すと、ノコの身体を締め付けていた力が消えたのが分かった。浮き上がっているようだった身体が弛緩する。

「んあ……」

 細い息を漏らしている。このまま続けていれば死んでしまいそうだ。

「始めるよ? 授業。皆早く服を脱いで」

 何も言えず、ブレザーのボタンを外す。

 何かを言えば、ノコの命が危なかった。

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