4.4 学校一の

「あれが、サクちゃんからユウちゃんを奪ったクソ男だね」

「そうです」

「喜入君に似た。ケツの穴の緩そうな男じゃないか」

「彼は知らないけど僕はちゃんとしまってるよ」

「……しまっているいう事は緩い可能性は残っている……? まあ、この話はあとで良い。今はあの男──名前は?」

素良そら優人ゆうとです」

「素晴らしい名前じゃないか。ユウとユウトで相性もいい!」

「ぐすん」

「ごめん、彼の肩を持つようなこと言って。私が例え、サクちゃんが人の仲を切り裂くような悪魔でも、サクちゃんの肩を持つつもりだよ。うちもあまり善人ではないからね。こいつも」

「善人です」

「こないだの暴力っぷりをみるにそうとは思えないな」

「あれは、状況が状況だったから」

 問題は、この会話が授業中の教室のすぐ外で行われているという事だった。教室の扉に身をかがませて、時折中を覗き込みながら話している。廊下を先生が通らないことを祈る。

「ちなみに、ユウちゃんはどれ」

「ユウはユウトの隣です」

「おお、位置関係まで巡り合わせのようじゃないか。可愛い子だ。私もけっこうタイプだ。奪い返したら二人で山分けしよう」

「するわけないじゃないですか」

「冗談は良しとして……お、何やら手紙のようなものを交わしているぞ」

 先生が黒板を向いているとき、こっそりと紙切れを手渡した。

「僕は今、放課後ユウとあれこれする妄想をしているよ」

「そんな子というヤツに彼女はできない」

「案外積極的な方がモテるかもよ? 喜入君もがっついてったら?」

 紙切れを読んで恥ずかし気に頬を赤らめるユウ。

 スカートをすり上げて、足を見せる。

「あながち間違いでもないかもしれない」

「くそ……羨ましい!」

 唇をかむ風船さん。

「……サクさんはあんなビッチと付き合いたいの?」

「ユウトに洗脳されてるだけです。本当のユウはもっとまともです。ビッチとか言わないでください」

 サクはユウの幻想を見ているだけなんじゃないだろうか。

「サクがあんな男に股を開くはずがありません」

 ジッと目を伏せて言う。そこには、どこか抗いのようなものを感じる。

 女子が男子を好きになって、男子が女子を好きになって行った──時の流れと周囲の変化を認めたくない気持ち。

「あなたたち……何をしているの?」

「はっ──」

 振り向くとそこに立っていたのは、学校一の淫乱教師、バラクーダ恭子きょうこだった。

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