4.3 河川敷

 河川敷まで戻ったところだった。遮るものがなく太陽の明かりがまばゆく水面を照らしている。背の高い枯草が風を受けて波打っていた。

「あの子、うちの学校の子かな?」

 風船さんが指さした先、斜面に女の子が一人座っている。

 髪の長い女の子、もの鬱気な顔をして、足元をじっと見ている。

 ──その瞳から、じわじわ涙がにじんできてポツリとスカートに落ちる。

 脚の間に顔をうづくめる。

「泣いてる? 関わると厄介そう」

「なんだ。てっきり、どうしたの? って話しかけると思ったのに」

「そんなコミ力が私にあると? 話しかけても何も解決できたないよ。胸を貸してやれるぐらいさ」

「貸してやりな」

 そういうわけで、野良猫に近寄るように恐る恐る忍び寄る風船さん。

「ど、どうしたの?」

 こっちが、どうしたの? って言いたくなるような動揺っぷりだ。

 顔を上げた女の子。

「えへん」

 すすり泣くと、また顔を降ろしてしまう。

「妖怪かな? 私が駅のロッカーに置いて来た赤ちゃんだったりしないよね?」

 同意して良いか分からず、わけわかんないことを言う風船さん。

「こ~れ~で~も~?」

 顔を上げる女の子。意外とノリがいい。

「きゃー、のっぺらぼうだ」

 もちろんちゃんと目も鼻も口もある。涙でぐちゃぐちゃだけど──

「あはは」

 いい笑顔だった。


「私、友達がいるんですけど──」

「そこら辺で止めておこうか。友達いるなら話は別だから」

「そう喧嘩腰になるなって」

「──その子に最近彼氏が出来て」

「彼氏が出来るようなイケてる子と友達なら、話は別だ」

「話が別過ぎて、もう辺り一面、別の話だらけだよ」

「──実は私、その友達のこと、ちょっと気になってたんです」

「ほうほう」

「──自分でも分かんないですけど、その子……ユウっていうんですけど、ユウのこと好きなんです」

「急に仲間意識が芽生えてきた」

「単純だな」

「──ずっとユウにはこのこと、言えないままでした。そしたら彼と付き合い始めちゃったから、ひがみと言うか、私いらいらしちゃって。ユウに意地悪な態度取ちゃったんです。何で、私の思い気付いてくれないんだろうって」

「悲しい」

「──ユウはそんな私のこと悪く思わず、これまで通り接しようとしてくれました。でもある日、喧嘩になちゃって。ユウと会いづらくて……それで今、こうしてここにいるんです」

「ダメだ! 私にはどうもできそうにない!」

 立ち上がる風船さんを押さえる。

「ちょっ。これは彼女の問題なんだから、僕らがどうにかするなんて、おこがましいし。でも、手助けすることぐらいはできるでしょ?」

「良いこと言うじゃん」

 座り直す僕ら。

「大体こういう時の解決策って、話し合って思いを吐露して、付き合えはしないけど友情が深まる感じだよね?」

「僕に言わないで彼女に言ってよ」

「だよね?」

「……その筋は私も考えました。だけど、どうにか二人の仲を引き裂いて、ユウを取り戻す方向で考えています」

「まあ、見かけにたがわず、恐ろしい子……! 私はこう、しっとりした感じの恋愛ストーリーを楽しめると思っていたのに……! 何ちゃん?」

仲霧なかぎりサクです」

「サクちゃん──楽しそうだから、うちらも混ぜて」

「はい。頭数がいた方が、作戦の幅も広がりますしね」

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