4.2 登校
家を出た僕ら。
通学路を二人で歩くことに躊躇がないのは、見られて気になるような人がいないから。
僕は何人かいるけど、彼女はいない。
「……」
可哀そうな目で見たら
「何だよ」
「きっといつか友達出来るよ」
「何急に? いらねぇし」
胸を張ってそっぽを向く。
「友達よりも彼女が欲しい」
「飛び級したね」
「恋愛優等生」
「ダセえ」
「友情よりも体を買ってくれる人もいるかも」
「悲しい関係」
「私、下心を友情よりも下に見るのは良くないと思うんだ。あー、おしゃべりするよりやりたい」
「よりどりみどり、ぐらい『り』が多い」
「よりどりみどり、だったらいいのに……あの子とかかわいくない? あーダメだ。女いるわ」
「友達のこと女って言うなよ」
「女じゃん」
「あの子は風船さんみたいに、友達のこと女だとは思ってないから」
「じゃあ男だと思ってるの?」
「性別を気にしてない」
「私は喜入君のこと友達だけど男だと思ってるよ──ドキッとした?」
「ちょっと待って、今文章の意味を理解するから」
「理解しなくていいよ冗談だから」
「男友達?」
「じゃあ、あの子もきっと友達のこと女友達だと思ってるよ」
「もう、面倒くさいから、人類皆友達ってことにしようぜ?」
「そしたらウチラ、こんなに孤立してないでしょ?」
「僕はちゃんと友達いるよ。風船さんと一緒にしないで」
「そうやって、友達がいないこのことを下に見るのもやめた方が良いと思うな」
「色々世間に言いたいことがあるんだね」
「おっぱいの大きさでランク付けするのはどう? そしたら私、どこまでも上位を目指せる。喜入君は最下位」
「そんなディストピアは見たくないな」
「マッチョはどういう位置づけにしよう?」
「筋肉のことおっぱいだと思ってるの?」
「似たような物でしょ。胸板を埋める装飾品。乳を与えるか、獣を狩るかの違い」
「じゃあ僕は何の役にも立たないや」
「そう落ち込むな。その賢い頭脳でフライを揚げろ。もしくは股を舐めるか、しゃぶるかしなさい。その可愛いお口で。しゃぶればきっと、しゃぶり返してくれるから」
「もっと高校生らしい会話がしたい」
「高校生らしいでしょ? 男子ってこんな感じじゃない?」
「もっと単純で知的な会話をしてるよ」
「嘘だあ。ペニっさんをバンズで挟んで、ケチャップとマスタードを塗りたくるような話してるでしょ?」
「ハロウィンでもしないよ。そんなこと」
「いいね。来年のハロウィンはその仮装をしよう。ハロウィンなんてあんまり気にしたことなかったな。今まで損してた」
「僕は風船さんと会話することで現在進行形で損してる」
「人々って現在進行形って言葉好きだよね。なんだろ、語感が良いのかな? それとも知的な感じがするのかな。中学で習った単語なのに。どっちもか──ああ、腑に落ちた。私とおしゃべりしてると、きっといいことあるよ。慈善活動」
「それはきっとそうに違いない」
「暇つぶしにもなるしね。ほら、もう学校に着いた」
校舎が見えてきた。
「あ、」
不意に立ち止まる風船さん。制服のブラウスを摘まんで
「体操服忘れた」
「今朝あんなに話してたのに」
「今から取り帰ったら間に合うかな?」
「見学すれば?」
「ダメ。体育は私のサービスシーンなのに!」
「見られたいか?」
「まだ見ぬ彼女へのアピールポイント! 良し、行くよ喜入君!」
今来た方へと腕を引っ張られる。
「なぜ僕も」
また授業に遅刻する。
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