4. 初めての彼女

4.1 朝

「おはよう」

「おはよう」

 同じベッドで朝を迎える。慣れてきてしまったのが少し悲しい。

 ドキドキしてたかったとかってわけじゃないよ。

「凄い寝癖だね。目も開いてない」

「そっくりそのまま返すよ」

 いつもより雰囲気が緩くて、これはこれで可愛い。

「こんな寝起きの互いを論評してるくらいなら、ベッドから出て、顔洗って寝癖直そうよ」

「寒いじゃん」

「確かに」

 冬の朝は起きるに起きれない。

「今日、体育あったっけ?」

「うん」

 クラスは違うけど、体育は合同だった。

 体操服を着て動く彼女の胸元を皆見ているのは、お決まりのことだった。

「喜入君は体操服着て行っちゃう派?」

「そうだね。着替えるのめんどいから」

「私もそっち派閥になろうかな……バスケ嫌だな」

 運動神経が悪いと言っていたし、確かに動きが変だった。

「喜入君は体育好き?」

「口臭いから、あんまり話しかけてこないでくれない?」

「はぁ?」

 驚いて目が覚めたのか、さっきまで半分ぐらいしか開いてなかった目が開く。

 声も大きくなって、息が漂ってくる。

「……」

 よほどショックだったのか数秒間固まった後、「寝起きだから」と言った。

やっぱり寒かったのか、起こした体を掛け布団の下に戻す。

「あんまり、思っててもそういうこと言わないであげた方が良いと思うよ」

 布団で口元を隠しながら話す。

「例えば、喜入君に初めて彼女が出来て、同棲したとするでしょ」

「うん」

「そのとき、彼女が入った後のトイレに入ったりすることもあるでしょ? 逆もあるし」

「うん。今もあるしね」

 恋人ではないけど、風船さんと一緒に暮らしてる。

「くさいと思ってるの?」

「うん……風船さんは、僕が入った後のトイレをどう思うの?」

「そんなでもない」

 数秒黙って天井を見上げて。

「これ、私が悪いのかな?」

 真理に気づいたみたいだった。

「え、嘘お。脇とかも大丈夫?」

 体を起こして、Tシャツの袖を摘まむと、こっちに突き出してくる。

「ちょっと嗅いでみてくんない?」

「嫌だよ」

 顔をそむける。

「その反応、まさかとっくに臭ってる……?」

「汗っぽいときとか、すっぱい匂いがする」

 一緒に寝てなきゃ気付かないだろうけど。

「えー……まじで? 制汗剤、買ってこよ。冬なのに」

「二人で寝てるから暑いんじゃない?」

「制汗剤って寝る前に塗っても良いのかな?」

「別々に寝ようよ」

「えー、寂しぃ」

 変にぶりっ子な言い方をした。

「きもい」

「フー」

 僕めがけて息を吹いて来た。顔を逸らしたら覆いかぶさって顔を覗き込んでくる。

「やめろ」

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