3.13 この道の終わり
『なんか急に静かになっちゃったけど? ちゃんと見えてる?』
重い鉄扉の前、身をかがめる僕と店長。
手元のスマホにはビデオ通話で、モニターの前に置いたスマホが写した映像が送られている。
「本当に、行くんですね?」
「ああ」
その言葉は屋敷を出た日を思い出させるセリフだった。
私は今、獣退治に向かうのだ。
「忠告する」
『あ、やっと話してくれた。何?』
「小麦粉とパン粉はどっちが好きだい?」
『……何の話?』
「人の揚げ方の話さ──!」
カチャリと鍵が回される。
「あぁ──!」
監禁室内に走り込む僕。驚いた目の女。
「止まれ──!」
男の握ったナイフが店員の首元へと着きつけられる。
手を掲げる俺、油温度180度──投入……!
心に浮かんだ油の海へ、二人を引きづり込む──
「……」
しかし、気泡もパチパチという音もは揚がらなかった。
膝から崩れ落ちたのは私の方だった。
「ダメだ──私にはもう揚げられない」
どこかで──分かっているのだ。この女を揚げることはできないと。
確かにこの女は下品で、彼女らの身に危害を加えた。
しかし、そもそもこの男女を揚げようとした我々も間違っているんじゃないか。
人揚げという裏メニューもまた、人の醜い欲望が生み出した品だ。
人肌に衣を咲かせ、食すという営みさえ。
──私の衣道はここで終わったのだ。
──私には遂にその意味が分かった気がした。揚げ物とは欲望だ。
──心の油海に浮かんだ、醜い欲望だ。
「だけど……ナタネ──君は……」
君に出会った日々さえ、醜い欲望だったというのだろうか。
肌を重ねた夜も……きっと愛に満たされたものだったはずなのに。
そうか──揚げ物自体が悪いんじゃないんだ。
「何物も、食べ過ぎは良くないな」
人を揚げるという行き過ぎた行為こそが、獣なのだ。
「いやー、解放されたー」
「解放されたねー」
しばらくぶりに服を着た僕らは意気揚々とキッチンを出た。裸に慣れ過ぎて、逆に服が肌を撫でる感覚がくすぐったい。
「あ、あの子まだいるね」
席に座ってスマホをいじってる女の子。同じ高校の。
トコトコと女の子の元へ駆けて行く風船さん。
「ねえ、ちょっといい」
話しかける。アンナにシャイだったのに、色々ありすぎてメンタル強くなったのかな。
スマホから顔を揚げた女の子の頬を、風船さんは思いっきり平手打ちした。
「えー、友達になろうとか言うと思ってた」
「てめぇ、良くもこんな目に会わせてくれたな!」
「最後ぐらいは平和に解決したかった」
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