3.7 尽くす

 いびつな色だがアレの形をしている。

「ちょっ」

 私が見つけたことに気づいて、握りしめる。抜かれたケーブルがパタリと床に渦を巻く。

「……私、凄いズボラな人みたいになってない?」

 恥ずかしいのか頬を赤らめていた。大分動揺しているようだった。握りしめたソレを隠すように抱き寄せている。後々、一緒に暮らしていると確かにナタネにはズボラな部分があることに気づいた。

「どこで狩って来たんだ? それほどのソレを持った男を倒すとは、お主やるな」

「……あの、人に生えてたわけじゃないからね。人工だからね」

「ほう……外界の人間は、生命を生み出すソレさえも作ってしまうのか。やはり、やるな。しかし、なぜ持っているんだ? 持っていても一体何に役立つ──」

「お腹減ってない?」

「減った」

 晩飯を頂いた。

「いやしかし、さっきの棒はどうやって使うものなのだ? 教えてくれないか」」

「もう忘れてよ」

「何でも教えてくれたではないか? まさか私が色々尋ねすぎて、もう飽き飽きしてしまったか」

「いや……他のことだったら聞いていいよ」

「……あの色合いなどを見るにもう死んでいるのではないか? 死んだそれに生命が生み出せるのか? そもそも本体から切り出された──」

「ああ、もう! 分かったよ! 教えるよ! ……諦めてくれなそうだから言うだけだから、別に言いたくて言うわけじゃないからね?」

「早く言ってくれ」

「……」

 睨まれた。

「私も棒のせいで、そなたとの関係を悪化させたくはないぞ」

「……私も」

「……先ほどから不思議に思っているのだが、なぜナタネは私に良くしてくれるのだ? 私に嫌われたとて、別に何も悪いことはない。むしろ、役に立たない男が消えて清々するだろう?」

「そんなことないです。私は……衣咲さんに救われたんですから。衣咲さんの揚げ物を食べて……あんなに心が揺れ動いたの、久しぶりでした」

 じっと見つめる目が潤んでいるのは、私の目が潤んでいるせいか。

「あと私……長いこといい人に出会えなくって、欲求不満なんです。その点、花咲さんは害はなさそうですし。女の子のこと殴ったりとかしないでしょ? だから、ワンチャンないかなって」

 私はそこで合点がいった。脳の奥を光が巡って、先ほどの棒と欲求不満と言う言葉が結びついたのだった。なるほど、あれは疑似的な彼氏なのだな。

 そして何より、女子おなごを殴らないだけで好感を持つような、ナタネのこれまでの不遇さに涙が出そうだった。やはり……外の世界には獣がいるようだ。あれは、家政婦の作り出した幻想だが、本当にいるのかもしれない。

「……なるほど。君は大変不遇な目に会ってきたようだな。今日、お世話になったお礼だ。私で良いなら、少しは尽くさせてほしい」

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