3.2 恋バナ

「お待たせしました」

「あー、ありがとうございます」

 運ばれて来たメニューがテーブルに置かれる。

「さて、場は整ったな」

 椅子に座り直して姿勢を正す風船さん。

「本題に入ろうと思う?」

「……なに? かしこまって。重いヤツ? ああ、いじめられてるとか何とかの」

「いじめられてはないけど、ハブられてる……ハブられてもないか。あのね……彼女たちは悪くないの」

 目をつぶって首を振る。

「私が下ネタばっかり言ってたら、嫌われちゃった」

「ホントに彼女たちに非はないと思うよ」

「春には友達だったの。でも、私とは気が合わないってことが分かったみたい。それで、新しいグループにも入れないまま、今はシングル」

「エクスクルーシブ(下ネタ)・シングル」

「何かカッコいいね」

「ぼっちのことシングルって言ってぼやかすくらいには、気にしてるってことだね」

「お、そこらへん分かってくれてる? もしかして喜入君もボッチ経験者?」

「まあね……色々あったんだ」

「その話はまた今度訊くとして──問題は、下ネタオッケーの女子集団にどう出会うかだよ」

「男子集団に混ざれば」

「……その手があったか! でも私みたいな冴えない女子、混ぜてくれるかな? 私なんて全然、可愛くないのに」

 頬に両手を当てる。

「サンドバックとして人気が出るよ」

「冗談ですっ……えー男子はいいや。可愛い子たちと仲良くなりたい。他愛のない話題で盛り上がりたい。おっぱいの大きさを確かめ合ったりしたい」

「この人を隔離しないと、彼女たちが危ない」

「でもさあ、実際の所……例えば、喜入君が凄いペニっさんのこと好きだとするじゃん」

「そんな外国人の知り合いいないよ」

「まあ凄い、好きそうな顔はしてるけど……でも、友人らはまったくペニっさんに興味がないわけよ」

「皆、凄い興味あるよ。大きさを確かめ合ったりしてるよ」

「でも、その、それは好奇心としてでしょ? ホントに好きな気持ちに共感してくれる人はいないでしょ?」

「……そうだね」

「好きなの?」

「別に」

「私は、『ああいう形がエロいよね』とか『あの子の凄いよさそう。服の上からでもわかる』とか、そういう話がしたい」

「じゃあ、僕がしたげようか」

「喜入君とはヤダ。もっと可愛い女の子としたい。喜入君はキュートだけど」

「ありがとう──つまり、レズの友達が欲しいってこと?」

「別にレズじゃなくてもいいよ。でもまあ、そういうことか」

「ゲイバーにでも行けば?」

「まだ高校生なのに?」

「インスタで知り合えば?」

「私にそんなお洒落センスがあると?」

「TikTokで踊れば?」

「私の絶望的な運動神経見たい?」

「ちょっと気になる」

 椅子を立って踊り出す。タコみたいだった。

「X」

「イーロン・マスクよりは、マーク・ザッカーバーグが好きだ」

「まる」

「あなたはテンパが好みでしょう」

「──真面目な話」

真真シンシン

「それ流行ってんの?」

 うんうん的な意味かな?

「そんな、あれもダメこれもダメってえり好みしてたら、出会えるものも出会えないよ」

「……喜入君は恋愛経験がおありですか?」

「片想いなら山ほど」

「ふー、かっちょいー」

「……一緒に頑張るか」

「気になる子がおありで?」

「さっきから何ナノその口調」

「おありでやんすか?」

「……いる……かなあ」

 目の前のあなただと言ったら、引かれるかな?

「えー誰?」

 テーブルに身を乗り出して目を輝かせる。

「お母さん意外だよ?」

「お母さん気になってたら不味いでしょ」

「話をそらさないで! 誰なの?」

「理不尽……だめ、秘密。言いたくない」

「言え!」

「じゃあ、風船さんのも教えて?」

「口が裂けても言いたくないけど、口が裂けたら、多分言葉が言葉にならないと思う! 口が裂けた前提で言ってみます!」

 なんか喉の調子を整える。

「あえあおえ」

「ホントだ発音できてない」

「……はあ、ウチラってホントに、意気地なし。意気地はないけど育児はしたい。嘘、やるだけやって、子供は要らない。子どもが出来たら離婚しずらいから。飽きたらすぐに次の子に行きたい」

「今の録音して、背中に張っておきたいよ」

「音を背中に張るとは、そなた面白い表現をしよって。その素晴らしいセンスに土地を千石やろう」

「それは殿を生き埋めにするための土地でしょうか」

「可愛い女子おなごと共に埋められるなら、そんな死に方も悪くない」

「……そんなんだからモテないんじゃない?」

「積極的な子が好きな子もいるよ。というか、喜入君は人生で一度でもモテたことがあるわけ?」

「それ言われたら何も言えないって」

「まあ、落ち込む出ない。そなたの悲しくも美しい恋愛道中に千石やろう」

「千石野郎め! 女を寄越せ!」

「え……きもっ……」

「冗談だよ! そっちだってさんざん言ってたじゃん!」

「私のには敬意が感じられたけど、あなたのからは、まるで」

「敬意って感じるのに特別な才能がいるのかな? 僕には君のから全く感じられなかった」

「そう、私は人には見えない敬意がみえる敬意霊能力者、うやまい・まくる」

「今日はどんな事件を解決してくれるんだい?」

「実はうちの部屋に住み着いてる、若い女性の敬意がいるんだけどさ、そいつが私に惚れちゃって。まいってんだ。敬い殺されそう」

「それで今朝僕は、君の背中に取り付いた敬意のせいで、君を敬意だと勘違いしたわけか」

「あまりに敬われそうで、ゾッとしただろう?」

「……いつまで、この小芝居を続けるの?」

「飽きるまで。あー飽きた。飽きが来すぎて逆にこっちがイキそう」

「……やっぱり僕、風船さんのこと苦手だわ」

「あ、あっ──い、いくっ!」

 変な声を上げ始める。店員さんがチラッとこっちを見る。

「テーブルの下でそんな意地悪するなんて!」

 脛を思いっきり蹴ったら静かになった。

 脚を押さえて身もだえてる。

「……乙女の脚にあざでも付いたらどうする」

「靴下履いてるから隠れるよ」

 黒いニーハイを履いてる。

「今は大丈夫だけど、恋人の前でとかどうするの?」

「着衣でやれ」

「全裸で靴下だけ履いてるのが好きなのは、一部の男だけ」

 白いシーツの上、黒いハイソックスだけ履いたままで、仰向けになっている風船さん。

「今一瞬、顔がくしゃってなったけど……変な妄想した?」

「してない、してない」

 首をブンブン振る。

「動揺が激しいな」

「安心して、私も結構好きだから──他にはどんなのが好き?」

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