1.2 タイプ
「だから、代わりに
「馬鹿なの?」
「……バカじゃないけど」
「ごめん、理解不能過ぎて悪口が出ちゃった」
「テスト中とか大変だね。黙ってるの大変そう」
「僕のこと馬鹿だって言い返してる?」
「ごめん、たまたま、そうなっちゃっただけ」
「で、何の話だっけ?」
「もっかい説明しないとダメ?」
首をかしげる。
「お腹冷えるから降ろすね」
さっきから別に、袖捲ったままにしといて、とも言ってないんだけどな。
ファサリ。
「えっと、その……僕のイメージだとこう、風船みたいな感じで、こう膨らむと」
「そうそう。あの、浮き輪みたいな感じ。ここが栓になってて、空気入れたり抜いたりできる」
「……なんでそんな、ロボットみたいになってんの?」
「そんなロボット見たことないけどね。まあ──色々あったんだ」
ニコリとほほ笑むけど。説明になってない。
ただ──今はまだ話すタイミングじゃないから、深くは聞かないでね。
という無言の圧を感じる。
色々あったんだ──の色々は、とても壮絶な過去なのかな。
「そっか……でも浮き輪みたいならさ、空気入れとかないの?」
「んー、あったら便利なんだけどね。でも、作り物の割に生身っぽい部分もあるからさ。流石に、乳首に管差したら痛いじゃん。だから口で優しく吹き込まないといけない」
指で生地のふくらみを摘まむ。浮き輪に空気を入れる時の動作が頭に浮かぶ。
「だから、ね、お願い。そりゃまあ、人の乳首咥えるのなんて嫌だろうけど。そこはまあラッキーと思ってさ」
後ろで手を組んでニコッと微笑む。急に子供、というか男子扱いされた気がする。
「お願い。助けて」
両手を合わせて、指先を唇に添える。
「遅刻しちゃうし」
「そうだ、遅刻するわ! てかもう、遅刻じゃん!」
今何時だ? 彼女が来て、五分ぐらいは洗面所に留まってる。
「早くやろう!」
彼女の前で膝をかがめる。
「気変わり早いな。真面目か」
よっぽど遅刻したくないと思われてる。
真面目だと思われるのは、なんかカッコ悪い気がして、癪だった。
実際の所、『時間がないって』いう理由が出来たから、彼女の提案を受け入れただけな気もする。そんな自分のいやらしさはどこかに流して。
とにかく、困ってる彼女の助けになるならいい。
眼前でタンクトップが捲られる。ここまで近づくと彼女の芳香がする。
「摘まむのは私やるわ。コツいるから」
薄桃色のソレの少し下を摘まむ。
「ん。お願い」
僕は恐る恐る口元を近づける。
ホントにこんなことして良いのかなという思いと、でも頼まれたんだからなという事実。
きめ細かい肌。少し色濃くなったそこには、小さいぶつぶつみたいなのが見えた。
先っぽの割れ目。唇が触れて。
僕はゆっくり息を吹き込む。何も変わった様子はない。
目だけを上に向けると
「もうちょっと強くていいよ」
言われた通りさっきより強く吹き込む。ただ、皮膚に押しあたって唇が押し返されるような圧迫感がある。息を強めると、ある所から、扉が開いて息が通り抜けていくような感じがした。
押し上がって来た皮膚が口元に当たる。確かに膨らんでる。
「いい感じ。続けて」
膨らんだそれは、小さいお椀ぐらいのサイズになった。
「じゃあ、次もう片方」
口を離す。もう息が切れた気がするのは緊張のせいか。
突起の先端が僕の唾液で湿っているのが見えた。
もう片方をさっきと同じように膨らます。先に膨らました方と同じぐらいのサイズになった。
「オッケー。じゃあ、左右揃えながら膨らませてこう」
「まだ大きくするの?」
僕の目にはもう随分、十分なサイズに見えた。
普通に手のひらに乗せたら丁度いいぐらいのサイズ──変なこと考えた。
「大きい方が良いじゃん」
そういう彼女を僕はちょっと呆れた目で見る。
彼女が周りに好奇の目で見られているのは、『意図せず』大きくなりすぎてしまった──不遇だと思っていたのに、彼女自身の希望だった。
僕には理解できなかった。僕ら男子は大きいソレを魅力的だと思うけど──彼女自身が、不自然なほどに膨らましたい理由は分からない。
「いんんじゃない? これぐらいで」
あんまり他人の『自身の魅せ方』に口を出すのも良くないと思うけど、口をつく。
「だめ、平らな平野見ててもつまんないじゃん。山とかあった方が良くない?」
体型を土地に例えてる。
「ほら皆、富士山とかエベレストとか、高いの好きでしょ?」
高ければ高いほどいい。早ければ早いほどいい。
人は皆、重力とか、筋力の限界とかに挑みたがる。
「……まあ、君が好きなら、それでいいけど」
「ほら、早くしないと遅刻するよ」
「僕頼まれてやってるんだよ? あんまり言うなら、やってあげないよ?」
「やりたくてやってるんでしょ?」
「……バレてる?」
「なんか、見たいけど見ちゃいけないし、咥えたいけど一応躊躇っておくかみたいな──免罪符を求めてる感じだった」
──ラッキーだと思ってさ?
彼女は僕……とか男たちのことを見透かしたように見る。
こういうの好きでしょ? みたいな。
そして、僕らの好きな彼女を振る舞いたがる。
──わけでもないか。ただ、大きいのが好きで、膨らますには他人の手を借りなきゃならない。
「じゃあ、遅刻しないように早く終わらせよう」
「じっくりしたければ、じっくりしてもいいよ」
「噛み千切るぞ」
軽く歯を食い込ませたら、頭上から変な声が聞こえてきた。
◇
「あー、帰った」
「あー、帰ったね」
部屋に戻って鞄を置いた彼女は──なぜ同じ部屋なのかは、後で説明するとして──ブレザーを脱いで、ブラウスのボタンを外し始める。
僕は背中を向けて見ないようにするけど、シューッと音が聞こえて来て振り返る。
「家帰ったら、楽だから空気抜いてるの」
と指でつまんで空気を押し出しながら、説明してくれる。
「邪魔だし窮屈だし」
さっき外して床に転がったブラジャーは、包む存在を失うと無駄に大きく感じる。
「薄っすらずっと膨らましとけば良いのに」
「ゼロに近づけるならゼロの方が楽」
「日中もゼロにしとけばいいのに」
「まっ平だと、塗り残しの多いキャンパスみたいでつまらないでしょ?」
大きい魅力を色んな比喩で語ってくるけど、理解出来そうにないからこの話にはこれ以上首を突っ込まないでおこう。
「胸板余白」
「ムナイタ・ヨハクはちゃんと脱いだ服を洗濯機に入れてね」
「私、胸板埋まってるから、ムナイタ・ヨハクはそっちでしょ」
「預言者ヨハクを讃えよ」
「すごーい」
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