第2話 「落し物探偵・バカ」

昼下がりの商店街。タロウはいつものように大声で笑いながら歩いていた。

彼の歩く道は、まるで花道のように人々の笑顔を作り出す。

だがその日は、ちょっと違った出来事が起こった。


「お兄さん!そこのお兄さん!」


小さな女の子が走ってきた。ランドセルを背負った小学二年生くらいの子だ。

タロウは両手を腰に当てて、ぐいっと胸を張った。


タロウ:「はいっ、町公認のバカにご用ですか!」

少女:「……えっと、お兄さん、探偵?」

タロウ:「違うね!バカだ!」

少女:「……」

タロウ:「いや、そこは笑うとこだから!」


少女は首をかしげたまま、ランドセルの中から小さなハンカチを取り出した。

赤いリボンのついた可愛いハンカチだ。


少女:「これ、友だちが落としちゃったの。すごく大事なものだって言ってたのに、探しても見つからなくて……。だから、探偵さんにお願いしたかったの」

タロウ:「なるほどな……任せとけ!」

少女:「えっ、できるの?」

タロウ:「できる!俺はバカだが、バカはバカなりに全力だ!」


彼は勢いよく指を天に突き上げた。

周りの買い物客がクスクスと笑い出す。


タロウ:「バカの名にかけて!この落し物、必ず見つけてみせる!」

少女:「ほんとに……?」

タロウ:「ほんとに!」


そう言って、彼はまるで刑事ドラマの主人公のように町中を駆け出した。


まず、パン屋の前。

タロウはしゃがみこんでパンくずを調べ始める。


タロウ:「ふむふむ……パンくずの大きさから見て、落とし物は食いしん坊による犯行の可能性が高い!」

パン屋の奥さん:「タロウちゃん、それはうちのクロワッサンのカスだよ」

タロウ:「……なるほど、捜査は難航している!」


次は魚屋。氷の山を指さしながら大声を出す。


タロウ:「この中に手がかりがある!」

魚屋:「あるわけねぇだろ!魚がびっくりしてんぞ!」

タロウ:「魚だって証言者だ!」


怒られながらも、彼は笑顔を絶やさない。

その滑稽さに、魚屋の客たちもつい笑ってしまう。


やがて、夕方になった。

タロウは商店街を走り回り、汗まみれで戻ってきた。

少女は待ちくたびれて、ベンチに座っていた。


少女:「……やっぱり無理だったんだ」

タロウ:「いや!大丈夫だ!最後の手がかりにたどり着いた!」


そう言って彼が差し出したのは、小さなぬいぐるみだった。

道端で見つけたものらしい。

少女は首を横に振った。


少女:「違うよ。これじゃない」

タロウ:「……そうか」


タロウはしばらく考え込み、やがてにっこり笑った。


タロウ:「なぁ。大事なのは、友だちがそのハンカチを大切に思ってるってことだろ?だったらさ、新しいのを一緒に選んで、その思い出を二人で作ればいいじゃないか!」

少女:「……え?」

タロウ:「落としたことより、新しく笑ったことの方が大事になるんだ。バカな俺が言うんだから、きっと正しい!」


少女はぽかんとしていたが、やがて小さく笑った。


少女:「……バカだね、お兄さん」

タロウ:「その通り!俺はバカだ!」


二人の笑い声が夕暮れの商店街に響いた。


その姿を、喫茶店の窓からユリが見ていた。

彼女はカップを磨きながら、ふっと優しく笑みを浮かべる。


ユリ(小声で):「……あんた、本当にバカだね。でも、いいバカだ」


タロウは少女と一緒に歩きながら、心の中でノートに書き記した。


――「今日も誰かを笑わせられたか?」

→「ランドセルの少女◎」


だがその下には、誰にも見せない小さな文字が続く。


――「……俺自身は、笑えているだろうか?」


夕日が商店街を赤く染める。

その中を歩くタロウの背中は、笑っているようで、どこか寂しげだった。

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