第2話

 日曜日のバトルリング部、新入部員歓迎会。それはバトルリング部の部室で行われていた。

(あれれ~おっかしぃぞぉ~……)

 兎月うづきは少し焦っていた、それはオリエンテーション初日に勧誘したはずの1年生、鳥本とりもとすずめがこの歓迎会に参加しているのを見ないからだ。1年生と2・3年生が交流をする中、兎月に一人近づいてくる。


 「兎月、あんたあの子の勧誘失敗したんじゃないの?」


 その人物はオリエンテーション初日に兎月と鳥本ペアに負けた一人だった。


 「ははっ……そんなわけ、無いじゃないっすか鹿島かしま先輩……」

 「いや、よくやったと思うよ私達。あの子にバトルリングの面白さを教える為にあんたもよく説明して、私も降参してさぁ」

 「そうでしたね……」

 

 兎月は目を泳がせる。


 「あの後自信満々にあの子がバトルリング部に入らなかったら、何するって言ってたっけ兎月ぃ?」

 「はい、裸で校内一周です……」

 「あはは、今日ならうちら以外誰もいないからやれそうだねぇ」

 「うへぇ」


 そんな話をしていると後ろから兎月にまた声をかける人が現れる。


 「バニラ、また調子のいい事言ったの!?」


 兎月は振り向く。


 「ココア!聞いてたのか!?」

 「あねさんに言いつけちゃおうかな?」

 「げっ!」


 兎月はココアに向かって頭を下げる。


 「頼む!あねさんには言わないでくれ!ホントに校内裸一周しないといけなくなる!」

 「まぁ業斗ごうとの事だから笑いながらやれって言うだろうな」

 「そんな鹿島先輩までぇ……そういやあねさんは?」

 「みんなは新入生に夢中だよ。話さないのは霧子きりこだけだよ」

 「まぁ霧子ちゃん!」


 兎月は一人で居眠りしている子、霧子の元へと向かった。


 「兎月、行っちゃったけど?」

 「私もとりあえずさっきの話、聞かせて貰ってからあねさんのところ行くね」


 居眠りしている霧子の前に影ができる。兎月が来たからだ。


 「キーリコちゃん」

 

 兎月が霧子を揺する。


 「う~ん……なんだ、バニラか」


 霧子が目を覚ます。


 「霧子ちゃんはいいの?新入部員と話さなくてさ」

 「いい」


 霧子は再び目を閉じた。


 「あれま霧子ちゃんってば」

 「あの……」


 兎月の後ろから兎月に話しかける声がある。振り向くと新入部員の一人がいた。


 「桐藤きりふじ霧子さんでしょうか?」

 「ああ霧子ちゃんはこっち、ほら起きなよ」


 兎月が霧子を起こす。


 「なんだ」

 「あっ……桐藤霧子さん。私ですフィアナです」


 霧子はその名前を聞いて目を丸くする。


 「フィアナ」

 「そうだよキリト君、フィアナだよ。会いに来たよ」

 

 霧子とフィアナは手を握り合う。


 「フィアナ」

 「キリト君……」

 「……あの~」

 「っはい!」


 フィアナが兎月の方を見る。


 「二人の世界に入るのはいいんだけどさ、経緯を聞かせてくれないと、こっちもリアクションに困るのよ」

 「あっ、すみません!」


 二人が手を離すとフィアナは恥ずかしそうに経緯を話した。


 事の発端は2年前にサービスを開始し始めたゲーム、サンライトオーロラオンライン。通称SAOから始まる。SAOはMMORPGの中でもボリュームにあふれたものだった、魔王を倒す為に各魔城の攻略をするも、プレイヤーからアイテムを略奪するも、辺境の地でスローライフに勤しむのも自由なゲームだ。

 そこで霧子は男性キャラでキリトと言う名前でアルファテストからベータテストを経て製品版を遊んでいた。本人が言うには……


 「遊んでいたわけじゃない。遊びながらデバックと言う仕事をしていただけだ、報酬も貰っていた」

 

 と、言う事らしい。

 フィアナこと望月もちづき明日菜あすなはゲーマーと攻略サイトの企画、PP《パーフェクトプレイヤー》計画に参加してSAOをやり始めた。

 それの計画とは、ベータテストプレイヤーのプレイデータを参考にし、それを学習させた新規プレイヤーを育成する事でゲーム開始初日から多くの攻略情報を得ようとする計画だった。

 このPP計画で使われたデータの中にキリトのデータが存在したのだ。明日菜はキリトのデータを学習して、SAOを楽に攻略していたのだ。

 明日菜は言う。


 「私はゲームをする内に会ってみたくなったの、キリト君に自分のこのゲームでの原点に」


 兎月は言う。


 「場所は違えど、あんたも霧子の毒にやられた子ってわけね。で、2人はなしてそんな関係になるのよ?」


 明日菜は話し始めた。SAOはベータテスター、PP、その他のプレイヤーで分かれていった。ベータテスターは迫害され、PPは他プレイヤーに逆に歓迎された。それはテスターは攻略情報を吐かないが、PPはそれを素直に教えてくれるからだ。そんなテンプレートが完成した世の中、プレイヤーギルドもPPは歓迎したがテスターについてはPK《プレイヤーキル》ギルドまで出来るほど憎まれていった。

キリトは最初はPPとして歓迎されていたが、その無口な性格からパーティーを追放される事となる。PPもPPでその性質を知った者からテスターの情報を吐かせようとするのが出てきた。特段、キリトのデータはよく使われていたことからキリトは追われる羽目になった。フィアナにとってはこれは好機だった、フィアナはPKも厭わずキリトを助け、自分の原点である事を話して二人で暮らそうと言ったのです。


 「なるほど、ゲーム内で孤立した霧子ちゃんを望月さんが助けたのね。それで、なんで霧子ちゃんの本名知ってたのよ」

 「それは、ゲームでプレイヤー名が本名になるバグが発生したからなんです」

 「あーなるほどね」

 「すぐに修正されましたが、私は覚えて、必ず会いに行くと言ったんです」

 「うんうん、そしたら」

 「そしたら、キリト君は自分の学校名を教えてくれたんですよ」

 「なるほどねぇ」

 「だから決めたんです!一緒に本物の魔物を狩るウィザードになるって」

 

 兎月はうんうん頷きながら聞いた。


 「霧子ちゃーん」

 「なに?」

 「いくら仲いいからってネットで知り合った子に個人情報渡しちゃダメでしょ!」

 「あぁ」「……たしかに」

 「フィアナちゃんが良い子だったから良かったものを、この子ったらこの子ったら!」


 兎月は霧子の頭を何度もはたく。


 「すまないバニラ、許してくれ」

 「もーいい話かと思ったら怖い話だよーリアルで怖い話だよー」

 

 「なら、おじさんが面白い話してあげよっか?」


 兎月の後ろから声がした。


 「業斗か」


 霧子のその言葉に兎月がピタッと止まり、ゆっくりと声の方を振り向く。


 「え~と、その面白いお話とはなんでしょう、あねさん……」

 「ん~とね、新入部員を勧誘したのに成功して大はしゃぎして、勧誘した子が今日ここに来なかったら裸踊りするって言ってた子がいるって話よ」

 「ほ、ほ~ん……で、その裸踊りするって言った人の通りここにその子は来たと……」

 「自分の胸に聞いてみれ」

 

 業斗は兎月に顔を近づける。


 「自 分 の 胸 に 聞 い て み れ」


 業斗は満面の笑みで兎月に向かってそう言う。


 「……はい、来てません」

 「じゃあ、裸踊りだ」

 「嫌です」

 「女に二言は無いだろう?私もやるんだからさ」


 業斗は自分と兎月の制服のボタンを外し始めた。


 「キリト君、この学園いつもこんな感じなんですか?」

 

 明日菜は霧子に問う。


 「ああ、退屈しない」


 霧子は微笑み、そう答えた。


 「すみません!遅刻しました!!」


 部室の入り口から声がした、鳥本雀が間に合ったのだ。


 「あねさん来た!来たからしなくていい!」


 既にシャツだけになっている兎月が慌ててそう言う。


 「なんだ来たのか、つまんないな」


 業斗はため息をついた。


 「それより、あの子かい?」


 業斗は着替えながら兎月に聞く。


 「はい、間違いなく。鳥本ちゃんです」

 「おーい、鳥本ちゃん!」


 兎月は鳥本を呼ぶ。


 「あ、兎月先輩。お久しぶりです」

 「いやあ、よくぞ来てくださったぁ」

 「なんでブレザー脱いでるんです?暑いですか?」

 「いやこれには色々あったんですよ~……」

 「そうなんですね。それより歓迎会、遅刻したんですけど大丈夫でしょうか?」

 「大丈夫、大丈夫、みんな鳥本ちゃんに注目してるからね」


 鳥本が周囲を見ると、確かにみんなこっちを見つめていた。


 「鳥本、こっちに」


 先生が鳥本を呼ぶ。鳥本はそれに従って先生の元へと行く。


 「遅刻の原因は電話で話した通りです。申し訳ございません」

 「いい、気にするな。それより自己紹介だ」

 「は、はい!」


 鳥本がみんなの方を向く。


 「遅刻してきましたが、鳥本雀です。よろしくお願いします」


 皆の拍手が送られる。


 「鳥本がこの歓迎会に参加する最後の新入部員だ、聴きたい事があったら聞いてくように。鳥本は話せる範囲で話すように」


 「は、はい!それではみなさんよろしくお願いします」


 これから、鳥本雀のバトルリング部での物語が始まった。


 

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ウィザードアップ!魔法学園でのバトルはサイコロとカード次第!? コフィア・コーフィー @Koffear

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