ウィザードアップ!魔法学園でのバトルはサイコロとカード次第!?

コフィア・コーフィー

第1話


 世界に魔法が生まれて約二千年の時が過ぎた。とある救世主がその死と同時に世界に魔法を分け与えたのだ。それがこの世界で伝わった伝説である。魔法の使える世界と聞いて、夢いっぱいのファンタジーを思い浮かべるかもしれないが、残念ながら生活基準は我々魔法の無い世界とそこまで変わらない。

 空飛ぶ箒や絨毯には車や自転車の様なルールや免許はあるし、夏は暑いし冬は寒い。世界情勢も自国の経済も似たようなものだ。そして、こっちで熊が出て人を襲うように、向こうでは魔物が出て人を襲う……

 魔法という物があっても、人と言う生き物は何ら変わりのない社会性で、いつも脅威に脅かされている。この物語はそんな魔法が当たり前にありつつも、魔物と言う脅威と戦う者になる少女達の物語である。

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 ここは【賽の国対魔学園】。埼玉県に存在する魔物を狩る為の技術を学ぶために作られた学校である。現在は女性の社会進出を目指す政策の元、女学生が多く在籍している。

 春の季節、この学園にも新たな芽吹きがやってくる、新入生の入学だ。

新入生のオリエンテーションも終わり、新入生が自由な時間が来ると先輩達が各部活の勧誘に躍起になっている。

 その中でも、人を集めているのが【バトルリング】部だ。人だかりの目線の先では人と人が魔法を使って戦い合っている。

 一人の少女がその行列を見て呆けていると、もう一人の少女が話しかけてくる。


 「おや、バトルリングに興味ありですか?」

 「ぴゃっ!?」


少女はいきなり話しかけられて驚く。


 「あ、あの……なんでしょうか?」

 「ああ、失礼しました。私、バトルリング部の兎月うづきバニラと申します」

 「兎月さん、ですか。私は新入生の鳥本とりもとです」

 「鳥本さんですね~。いやよろしくです」

 「はい。それで、バトルリングとは?」

 「はい!バトルリングとはですね……」


 兎月はバトルリングについて解説を始める。

 バトルリングとは、ここ賽の国対魔学園にて行われる3対3の決闘遊びである。そのルールは戦う相手をサイコロで決め、使う技をカードで決めるランダム性の高い戦いである。自分の意志で使える魔法はスペシャルカードを手にした時のアビリティと勝負中一度きりのスキルのみである。

勝負の行方はほんの少しの実力と、配られたカードと一天地六の賽の目次第、それが……


 「バトルリングです!」

 「は……はぁ」

 「どんなに弱っていても、賽の目が向かなければ生き残れる!どんなに魔法が苦手でも、カードが示すなら魔法で攻撃しなければならない!」


 兎月は説明に熱が入る。

 

 「そ、それが魔物狩りとどう関係があるんですかね?」

 「おお、バトルリングにそう言う感想が出るとは、まだまだひよっこですな」

 「はい、新入生です」

 「……そうでしたすみません。じゃあ、解説していくね」


 兎月は魔物狩りについて解説を始める。魔物狩りでは多くの人が協力して1体から複数体の魔物を相手にする。その時、専用の魔力を含んだカードを使う。それが……


 「【ウィザードカード】です!」

 「ウィザードカード……」


 ウィザードカードは魔物に合わせて調合された魔術が入っており、それを自身に付与する事でその魔物に対して有効な攻撃を行えるようにする基本的な魔物狩りに使われている装備である。

 魔物には物理攻撃と魔法攻撃と言う攻撃カテゴリーと対物理、対魔法と言う防御カテゴリーがある。例えば、亀の様な魔物であれば、魔法攻撃と対物理に特化している。そこでその魔物に対応するウィザードカードは魔法攻撃と対魔法に特化したカードとなる。

 

 「そして複数体で現れる魔物には、それぞれの弱点を補う様に現れる魔物もいます!」


 魔物が魔物を庇う様に動くと、うまいこと有効な攻撃が当たらない事がある。そうなると、反撃も来る。その時の為に自身が覚えている日常生活で使う魔法や技術を使うことや、一時的に防御力や攻撃力を上げる追加のウィザードカードを使う時がある。要するに……


 「戦闘訓練を兼ねた遊びって事ですか?」


 鳥本が纏める。


 「はい、その通りです!」

 「なら……やってみたいです」

 

 兎月はその言葉に涙を流し鳥本の手を握る。


 「よくぞ、よくぞぉぉ」

 「ぴぃッ!」


 鳥本はその泣き顔に引く。


 「それでは早速バトルリングを体験してもらいましょう!」

 「えぇ!!今からですか!?」


 兎月は鳥本の手を引いて部活の会場へと向かった。

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 バトルリング会場。所謂、校庭に作られた簡易スタジアムである。そこには先ほどの人だかりで出来てその場所を囲っている。


 「こんな中で戦うんですね」

 「そうだよ。今日は簡易的に2対2だけどね」


 兎月は鳥本にカードを1枚手渡す。


 「これは?」

 「IDカード。ウィザードカードの学生版で、本来は個人個人で作って登録するんだけど、今回は簡易版だから、誰の物でもない基本的なカードだよ」

 「なるほど……」

 「因みに私は私のIDで今日はやったげる」


 兎月は得意げに自分のIDを見せると、2人の戦う番がくる。


 「因みにこれの使い方は?」

 「こう!【ウィザードアップ!兎月バニラ!】」


 兎月はIDを手の前に出し魔力を注入する。するとIDカードは溶け、光となって兎月の全身に張り付く。それは光を失うと同時に兎月を守る鎧と武器となった。


 「鳥本ちゃんも!」

 「は、はい!ウィザードアップ!鳥本とりもとすずめ!」


 鳥本のIDも同じ様に鳥本を守る鎧と武器となる。


 「あ!兎月ズルい!」

 「自分のID使ってる!」


 対戦相手の2人が兎月を指差してそう言う。2人の鎧のデザインは鳥本の物と同じ、つまり誰の物でもない基本的なカードだ。


 「なはは!味方が新入生だから特別なのだ!!」

 「先生、いいんですかぁ?」


 対戦相手の1人が審判である先生に取り合う。先生は新入生のオリエンテーションなので特別に許可すると言った事で対戦相手は納得した。


 「それでは両者、パワーアップを」


 先生がそう言う。


 「パワーアップってなんです?」

 

 鳥本が兎月に聞く。

 

 「パワーアップってのはね、このID、つまりウィザードカードのパワーを好きなように調整できるんだよ」

 「なるほど、つまり?」

 「物理攻撃、魔法攻撃、物理防御、魔法防御、そしてスピード……それらにパワーポイントを振り分けられるんだよ」

 「なるほど、どうやって?」

 「こうやって!ステータスオープン!」


 兎月の前に魔法のディスプレイが表示される。そこには兎月のステータスが表示される。


 「みてみて、これがステータス」

 「はい……HPえいちぴー

 「ヒットポイント。この鎧の耐久力だね」

 「次に、Attackアタック

 「この武器の物理攻撃力だね」

 「次がDefenseディフェンス

 「この鎧の物理防御力だね」

 「となると、次とその次のMagicAttackマジックアタックMagicDefenseマジックディフェンスは魔法攻撃力と魔法防御力ですね」

 「そういう事になるね!」

 「そしてSpeedスピードはそのまま素早さ……」


 兎月はうんうんと頷く。


 (飲み込みの早い新人が来てくれて先輩は嬉しいよ!!)


 兎月は心の中で感動する。


 「ステータスオープン……なるほどなるほど……」


 鳥本は自身のステータスを確認し始める。


 「兎月……先輩と違ってこっちのほうはバランスの良い、というよりも可もなく不可もなくと言ったステータスですね」

 「う、うんまぁ誰でも使えるものだからね~」

 「パワーアップに振り分けられるのは5ポイントか……それなら……」

 「あ、折角相手知ってるから言っておくね。あっちの子がスピード重視の物理攻撃タイプ……」


 兎月は対戦相手の情報を話し始める。


 「それ、話しちゃっていいんですか?」

 「いいのいいの。本チャンの魔物狩りも相手の情報を知ってから対処するし、逆に鳥本ちゃん知らない相手は不利だろうけど、そこはバトルリング部。それ相応に対処するでしょうね」

 「ぴ……ぴぇ……」


 鳥本はちょっと呆然とするも納得はする。


 「パワーアップポイントは振り終わった?」

 「はい。とりあえずは……先輩は?」

 「もう振り終わった!」

 

 兎月は先生に振り終わった事を宣言する。対戦相手の方も振り終わった事をしると頷く。


 「それではターゲティングに入ってください」


 兎月は鳥本をつつく。


 「また聞きなれない言葉が出てきたでしょ?」

 「まぁはい。ただターゲティングってマーケティング用語であったような……」

 「あ、バトルリングのは、それとは違うね」

 「そうなんですか!?」

 「バトルリングのターゲティングは、サイコロの出目をプレイヤーに振り分ける事だよ」

 「最初に言ってた賽の目次第ってそう言うことですか!?」

 「そう言う事。じゃあこう振り分けるね」

 

 兎月は2人のサイコロの出目を振り分ける。

 

 兎月 23456

 鳥本 1

 

 (凄い偏ってる!)


 鳥本は心の中でツッコミを入れた。


 「先輩、それは流石に2人相手に厳しいですよ」

 「大丈夫、まぁ見てなって」

 「相手の方はどうなってるんだろう?」


 鳥本は相手の方を見る。


 対戦相手1 123

 対戦相手2 456


 (ま、まぁ普通はそうだよね……) 


 鳥本は心の中で相手の振り分け方にホッとした。


 「それではドローフェイズに入ってください」


 対戦相手の2人は慣れた手つきですぐさま鎧からカードを引く。


 「先輩、あれ、どうやるんですか?」

 「あれはこうやる」


 兎月は左腕を鳥本に見せる。その後、左腕の鎧の隙間に右手を置き、カードを引いた。


 「こんな感じ」

 「わかりました、やってみます!」


 鳥本も同じ様にしてカードを引く。


 「引けました!それでこのカードってなんなんです?」

 「これは攻撃用のウィザードカードの簡易版だね。危なくないよう調整されてる魔法が組み込まれているのだ」

 「わかりました。ウィザードカードには鎧用と攻撃用の2種類があるんですね!」

 「そう言う事だね。OK、じゃあ後は私が余分にカードを引くね」


 鳥本は首をかしげる。


 「おっと、バトルリングは最初に戦うチームの人数プラス1枚のカードを引くんだよ。残ったのは手札として残しておけるんだ」

 「なるほど……」

 「で、このカードを使ってね。戦略を立てる」

 「はい」

 「カードはチームで共有できる。今回は私の引いた2枚のカードを使おう」

 「はい。えーと、ガードカードとマジックカードですか」

 「そう、ガードカードは防御、マジックカードは魔法攻撃だよ」

 「じゃあ、私がガードカードですかね?」

 「のんのん、私がガードカード。そして鳥本ちゃんがマジックカードだ」


 兎月は鳥本にマジックカードを渡す。


 「私はターゲティングで5つの目を選んだ、つまり攻撃のターゲットにされやすいんだ。だからこのガードカードを使わせてもらうのだ」

 「そうでしたね。それで、狙われにくい私が攻撃ですね」

 「そういうこと。じゃあ、カードを武器に入れて」


 武器にはカードを差し込む溝がある。そこに選んだカードを挿入する。


 「これでバトルの準備は完了。後は先生の宣言の後にスピードの速い人から行動だよ!」


「それでは始めます!いざ、運と実力を持って【決闘解放デュエル・リリース】」


 先生のその宣言の元、1度目の戦いが始まったのであった。


______________________________________


 1度目の戦闘が始まる。最初に動いたのは……


 「私だ!」


 対戦相手1だった。


 「さて、誰に攻撃がいくかな?」


 スタジアム中央上空に巨大なサイコロが浮かび回転する。


 「ダイスストップ!」


 対戦相手1が叫ぶとサイコロは回転を止め、その出た目を指す。


 「出目は……5!」


 対戦相手1は兎月の方を向く。


 「かも~ん」

 

 兎月は対戦相手1を挑発する。


 「あんた一人だけ……ッ!」


 対戦相手1はスピードを上げて兎月めがけて斬りかかる。


 「自分のID使うのは卑怯でしょ!!」


 兎月の光の盾が対戦相手1の剣を弾く。


 「ズルいズルいと喚くのはいいけどね……」


 対戦相手1の総攻撃力パワーは17。対して兎月の総防御力パワーは……


 「20ッ!?」

 「じゃあ、反撃いくね?」


 兎月はニッコリ笑って武器を構えた。兎月の魔法によるレーザービームが対戦相手1の鎧を貫く。


 「……ッ!これくらいなんともないわ!」


 対戦相手1はすぐに体制を整えた。


 「まぁ反射3ダメージだからね。次に速いのは?」

 

 鳥本が手を挙げる。

 兎月は中央上空のサイコロが二つになるのを見る。


 「ありゃ、同じ速度か……」

 

 兎月が困った表情をする。


 「同じ速度だと何かあるんですか?」

 「うん、あるにはあるけど……運次第だね。とりあえず、ダイスストップの掛け声で鳥本ちゃんのダイスが止まるよ」

 「はい、ダイスストップ!」


 対戦相手2の出目 1

 鳥本の出目    5


 「おお!いきなりとは運が良いのか悪いのか……」


 兎月が驚いて何とも言えない顔をする。


 「その何かがあったんですか?」

 「うん、その通り。まぁ2人で攻撃し合ってごらんよ」

 「はい!行ってきます!」


 同じ速度の2人が向かい合う。


 「それじゃあ、行かせてもらいます!」

 「こちらこそ、よろしく!」


 対戦相手2が鳥本に迫る。鳥本は武器から魔法を出して迎撃するも、対戦相手2の斬撃がクリーンヒットする。


 「うぐぅッ!!」


 鳥本は怯んでしまうも追撃は無い。同じ様に鳥本の攻撃も対戦相手2にヒットしていたのだ。

 

 「大丈夫?」

 

 兎月が駆け寄る。


 「はい。大丈夫です」

 「そっか、よかった」

 「……ステータスオープン」

 

 鳥本は自身のステータスを確認する。


 「凄い……今ので13ダメージも入ってしまいました」

 「うん、これがバトルリングの【相打ち】だよ」


 兎月が説明を挟む。


 「相打ち……?」

 「そ、両者同じ速度で攻撃対象が同じ速度の相手だった場合に起きる。攻撃中の攻撃は防御力が意味をなさずに0として扱われてしまうんだよ」

 「じゃあさっきの……」

 「うん、入ってるはずだよ。きっかり20ダメージが相手の方に……」

 

 兎月が上空のサイコロを見上げる。

 

 「いや、もしかして……エネミーステータスオープン」


 兎月がその後、すぐに相手側のステータスを確認し始める。


 「やっぱり……」

 「なにかあったんですか?」

 「……クリティカルッ!」

 「クリティカル?」

 「うん、一部のカードにはクリティカルかステータスを上げるか下げるかって能力が付いているものがあるのよ。今回鳥本ちゃんが使ったのはその効果があるものだったんだけど、鳥本ちゃんが選ばなかったから勝手にクリティカルになったみたいなのね」

 「なるほどですね、それでどのくらいのダメージが入るんですか?」

 「20の倍が入るから40だね」

 「はは、凄いダメージですね」

 「そうだよ、凄いよ!」

 

 兎月は相手の方を向く。


 「さてと、それじゃあ私の番だけど……ガードカードを使ったなら、この番は攻撃できない。次の番に行くよ」


 兎月が先生の方を見ると先生は頷く。


 「それではドローフェイズに入ってください」


 その声を聞いて4人はカードを引く。


 「今回は余分に引かないんですね」

 「そうだよ、決闘デュエルが開始してからは最初のチーム参加人数と同じ枚数を引くんだ」

 「つまり、3人で始めたなら3枚引くんですね?」

 「そう言う事、今回は2枚だね」

 「先輩の言い方だと、倒れた人がいても最初の人数分引く感じですね」

 「そだね、最大枚数の最初の人数プラス1枚になるように捨てなきゃいけない。そこは後々覚えればいいよ」

 「わかりました」


 それぞれカードを武器にセットする。


 「それでは、決着のつくまで!【決闘継続デュエル・コンティニュー】」

 先生のその宣言の元、2度目の戦いが始まった。


______________________________________


 2度目の戦闘が始まる。最初に動くのは1度目と同じだ。


 「今度こそ!」


 対戦相手1は上空のサイコロを見る。


 「ダイスストップ!」


 対戦相手1が叫ぶとサイコロは回転を止め、その出た目を指す。


 「出目は……3!」

 「残念、また私だ」


 兎月はニヤニヤする。


 「今度こそ!」


 対戦相手1の斬撃が走る。


 「残念またなんだ」


 しかし、またしても光の盾に防がれる。


 「もう一撃!」


 対戦相手1の斬撃がまた走り、2つの斬撃の衝撃波が重なって光の盾を打ち破る。


 「そんなもん?」


 対戦相手1が兎月に与えたダメージは3。


 「ちぃッ!私も自分のIDだったら……」


 次の攻撃が始まる。鳥本と対戦相手2の攻撃のターンだ。

 

 「「ダイスストップ!」」


 2人の声が重なる。サイコロは同時に止まる。

 

 鳥本の出目    4

 対戦相手2の出目 6


 「ダメね、終わったわ」


 対戦相手2に諦めた顔が出る。それは攻撃中に攻撃を受ける事で発生する防御力が0になるバトルリングのシステムを把握しているからだ。


 「それでも兎月にはダメージが入るわ!」


 対戦相手2は魔法による攻撃を始めた。


 「鳥本ちゃん、カードは!?」

 「アタックカードです!」

 「なら攻撃!」

 「はい!」


 鳥本の武器が衝撃波を放つ。


 「後、任せた」


 対戦相手2はそう言うと攻撃をダイレクトに受けた。


 「装甲崩壊アーマーブレイク!」


 先生が叫ぶ。


 「あれで撤退ですか?」


 鳥本は兎月に聞く。


 「うん、装甲崩壊で撤退、戦闘不能。この決闘で負けたって事だよ」

 「それより先輩、あの人の最後の攻撃受けましたけど大丈夫ですか?」

 「はっはっは!私の鎧は対魔法防御に初期値MAX振ってあるのだ!そうそう簡単に魔法攻撃でやられますかい!」


 兎月は自信満々にそう言った。


 「……メンバーステータスオープン」

 「なぜぇ!?」

 「あ、いや瘦せ我慢じゃないかと確認を……あ、本当ですね。6ダメージしか変わってない……」

 「だからそう言ってるってば!」


 先生が咳払いする。


 「そろそろ次の番に行きますよ。ドローフェイズに入ってください」


 3人がカードを引く。


 「気になったんですけど、この決闘って攻撃の回避はしちゃいけないんですか?」

 「うん、基本的にはしちゃいけない。受けることが騎士道やら武士道の精神を鍛えるとか何とかでね」

 「そうなんですね。何とか躱していい理由ありませんかね?」

 「う~ん、あるとしたらスキルやアビリティ登録の時にそういうのにする事かな?」

 「また聞きなれない単語が出て来ましたね」

 「うん?スキルとアビリティの事ね……これは……」


 兎月は先生の方を向いて手を挙げる。


 「どうしました兎月さん」

 「先生、鳥本さんにスキルとアビリティについて説明したいので、次の番の使用許可をください」


 兎月がこう言うのも新入生歓迎のオリエンテーション中ではスキルとアビリティについては使用不可にしているからだ。


 「私からもお願いします」


 対戦相手1も兎月に賛同する。


 先生は数秒間考えた末、使用許可を出す。


 「じゃあ次の番はスキルとアビリティの使用を許可します!それでは、決着のつくまで!【決闘継続デュエル・コンティニュー】」

 先生のその宣言の元、3度目の戦いが始まった。


______________________________________


 3度目の戦闘が始まる。最初に動いた対戦相手1の攻撃は兎月にクリティカルヒットした。そして、鳥本の攻撃も対戦相手1にヒットした。


 「ではでは、行きましょうか、スキル発動!」


 兎月はそう言って武器を天に掲げた。すると武器から光が現れて兎月と鳥本の体を包む。


 「先輩、これは?」

 「これが私のスキル!味方全体を回復しちゃうのよ!スキルは決闘中1度だけ発動可能なんだ!」


 鳥本はステータスを開いて確認する。


 「凄い、6ポイント回復しましたよ」

 「うん、まぁ回復値はランダムだし、私が観測した限り最大値12なんだけどね。私の元々得意な回復魔法をバトルリング用に設定してもらったものなんだ」

 「な、なるほど元々得意なことをバトルリング用に応用してるんですね」

 「そう、それがスキル。そしてもう一つのアビリティはこれだ!」


 兎月が武器を構える。


 「スペシャルカード!マジックアタック!!」


 兎月の武器から魔法攻撃が放たれる。対戦相手1に9ダメージが入った。


 「そしてマジックスペシャルカードによって私のアビリティが発動!スキル再使用可能!!」

 「え?さっき決闘中1度しか発動できないって……」

 「これは私のアビリティ効果だからね。私はアビリティでスキルを再使用可能にしてるのさぁ~。そしてアビリティはスペシャルカードを使う度に何度でも発動可能!」

 「凄いですね!」

 「とは言っても私のはマジックスペシャルカードじゃないとアビリティ発動しないんだけどね」

 「なるほど、スキルやアビリティは人によって違うんですね」

 「申請する時、気を付けな。先生によっては物凄く厳しいから……」

 「は、はいわかりました」


 2人がそんな話をしている中で対戦相手1が立ち上がる。


 「そんなもんでいいでしょう。この決闘は私の負けよ。レクチャーも兼ねて面白かったよ兎月」

 「いや~、よく教わってくれて誘った甲斐があったというものですよ、鳥本ちゃん」

 「は、はい!ありがとうございました!」


 対戦相手1が先生の方を向き、降参を告げると先生は頷く。


 「決闘終了デュエル・エンド!勝者、兎月鳥本ペア!」


 観客の歓声が沸く。兎月はピースサインを観客に送り、鳥本は一礼をしてスタジアムを去った。


 「今日はどうだった、鳥本ちゃん」

 

 バトルリングを終えて、兎月が鳥本に感想を聞く。


 「凄く……覚えることがいっぱいでした!」

 「なはは……そうだよね、でもやってみると楽しいよ?」

 「そうですね、その……騎士道ってのもわかる気がします!」

 「う~ん、そっちか~。それでどうだろう、バトルリング部入ってみない?」

 「はい!入らせていただきます、先輩」

 「そっか、じゃあこの入部届にサインを」


 兎月は懐から入部届とペンを取り出す。


 「は、早いですね」

 「まぁこれでも勧誘してる者なんでね」


 鳥本は渡された入部届に名前を書いた。


 「じゃあ私、他の所も寄ってみますね。今日はありがとうございました、先輩」

 「おー!楽しんでなー!」


 2人は別れた。そして数日後……


______________________________________


 新入生にとっては入学初めての日曜日となるその日。バトルリング部、新入部員歓迎会の日である。


 「それでは新入部員の自己紹介から始めます」


 新入部員が1人ずつ自己紹介を始める。

 そこに鳥本雀の姿は……



 

 ……なかった。

______________________________________


 「ぴゃいッ!!」


 彼女が飛び起きた時間は、歓迎会開始から30分遅れだった。

 果たして、彼女は歓迎会に向かう事が出来るのであろうか……

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