油臭い機関士 【灰の傭兵と光の園 二次創作】

 俺の名はハガネ。下の名前は忘れた。

 グレイランスに乗ってどのくらい経ったかも忘れたし、乗った理由ももう忘れちまった。

 気が付けば機関士見習いになってて、今じゃいっぱしの機関士だ。


 オイルが固まるほどの寒さと、吹き出す汗がすぐ乾くほどの熱が同居する機関室が俺の仕事場さ。

 ここは外界と遮断された、鉄と油が支配する俺の聖域サンクチュアリだ。

 ここにいると、グレイランスがどこにいるかわからなくなる。

 黄域なのかただの荒れ地なのか。

 だが、そんなことはすぐにどうでもよくなる。

 そんなことよりも俺が気になるのは、可愛い機械たちが変わらずに動き続けることだ。

 すぐそばで戦闘が起きていようが、平穏な道だろうが、そんなことに関係なく、俺が関わる全ての機械が一秒後も一時間後も、一年後だろうとも、いつもと変わらないよう動き続けることだけが重要なんだ。


 傭兵たちは命を賭けて戦い、血を流すことで金を稼いでくる。

 整備士たちはRFを傭兵の要望を聞き、何一つ不安を生じないように整備する。

 オペレーターはグレイランスの命運を簡単に左右する危険な道のりでも適切な航路を巡航する。


 そして俺は、それが当たり前に行えるように維持する。

 それだけだ。

 俺は目立っていい存在じゃない。

 皆が誰も気にかけず、存在を意識することのないことが俺の誇りなのさ。


 先日は少しやらかしてしまったがな。

 動力炉の排熱をそのまま利用して洗濯物を乾燥させてたから、せっかく綺麗に洗っても油絵臭くなっちまってたみたいだから、俺は停泊中に何本もの水の管を排気管内に通して、水を蒸気に変えた熱で洗濯物を乾燥させるようにしてやった。

 そしたら思いの外喜ばれちまった。

 目立ってはダメなんだよ、俺は。


 俺の住む世界は、鉄と油と騒音にまみれた機械たちに囲まれた、この機関室サンクチュアリがお似合いなんだよ。

 油まみれのツナギを着て、動力炉の横で居眠りする。発電機に油を継ぎ足してレーザー透過式浄水器のフィルターを変える。

 蒸気管の上に置いて暖めた缶詰を食いながら、各センサーが異常をモニターに表示させる前に異常を見つけて対処する。


 目立つ世界は傭兵たちに任せる。

 俺には向いていない。

 だから俺は、誰にも気づかれないように傭兵たちを支える。

 それが機関士って奴なのさ。


 だけど、いつも油臭いせいで、何故か目立っちまうんだけどな……

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