第22話
結界が破られた——。
その頃、銀髪の男は、古い社の奥からやけに明るく差し込む月の光を眺めていた。男の口元が、わずかに吊り上がる。
彼は、手の中で弄んでいた翡翠の玉に、小さな亀裂が入ったのを感じた。
男は、その冷たい瞳を、遠く離れた清園寺家の方角に向けた。
「もう時間がないな」
男は、懐から別の禍符を取り出し、唇を寄せ、小さな呪詛を囁き始めた。
禍符が、脈打つように光り、空へと吸い込まれていった。
「…お前たち、そろそろ時間だ」
その頃、結は、禍符を手に、清園寺家の古い書物庫へと向かっていた。
書物庫の扉を開けると、古い紙と埃の匂いが鼻を突いた。
足元には、年月を経た和紙の束が積み上げられ、その上に張られた蜘蛛の巣が、静かに月の光を反射している。
結は、そっと奥へ進んだ。
(手がかりは、ここにあるはず)
埃を被った書物をめくり、禍符に描かれた紋様を調べる。
「あぁっんっ!もう!汚いッ!!」
埃の中で結はせき込んだ。
結は、古い言い伝えの中に、その紋様を見つけた。
「禍根(かこん)の紋」
それは、魂を蝕み、他者の命を奪う、最も忌み嫌われる禍術の紋だった。
(やっぱり禍符に違いない)
結の全身から血の気が引いた。
(まさか……颯くんは、禍術師と繋がっている?)
結は、自分の直感を信じ、颯の過去をさらに深く探ろうとする。
しかし、手紙は解読できない。
(内容はわからないけど、とにかく禍符を持っていたのは間違いない。)
「……ッあつっ!」
突然禍符が燃えた。ぼっと青白い炎を出し消えた。
「なんなのよぉ!やけどしちゃうじゃないの!」
その瞬間、結は悟った。
(コトコが危ない……!)
結は手紙をポケットにしまい込み、外に飛び出した。
夜の空気は、書物庫の古びた空気とはまるで違った。
夏とは思えないほど、どこまでも澄んで冷たい風が清園寺家を包んでいた。
結が書物庫に向かっているとき、琴子と颯はそれぞれに分かれたところだった。
颯は先ほど部屋で感じた異変が間違いではなかったことに気づいた。
(やはり、何かがおかしい)
颯は引き出しをのぞいた。
結界が破られ、箱が開けられていた。
中身が、ない……。
颯は外に飛び出した。
清園寺琴子の結婚 @shousetsu_yomukaku
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