第21話
まさに颯が部屋に向かうその時、結は震える手で胸を押さえているところだった。なぜ颯がこんなものを持っているのか。
「…どうしよう」
動揺で思考が停止しかけたその時、廊下から足音が聞こえてきた。
(まずい…!)
この足音からするともう十数秒でこちらに来る。
結はとっさに箱を元の場所に戻し、机の下に身を隠した。
扉が開く音がする。
「…ん…?」
颯だ。何かしらの気配を感じ取ったようでその目には警戒の色を強める。
(見つかる…!)
心臓が警鐘のように鳴り響く。
その時、————
廊下の向こうから別の足音が聞こえてきた。
「颯!!……寝る前に言っておきたくて」
琴子の声が近づいてくる。
「…琴子?」
颯が部屋を出て、琴子に声をかける。
「あの、あの……」
「どうしたの?」
二人の声が夜の空気で揺れる。
「私……」
ぎゅっと琴子が颯の手を握る。颯は呆気にとられる。
「颯の辛い気持ちを抱きしめてあげたかったの……」
颯は目頭が熱くなるのをこらえ、琴子の手を握り返した。
風が二人の間を通り抜け、優しく夜の木々を揺らした。
結は、そっと机の下から這い出た。
(危なかった……)
窓から外へ出る。
結の瞳には、鋭い光が宿っていた。
今夜は、やけに月が明るく、美しかった。
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