第10話

「なるほどねぇ。そういうわけだったのね。やけに本家の方が忙しくしてると思ったわ」

結はリップできらめく唇を人差し指で触り、考え込んだ。

「・・・・・それで、結局顔合わせの日に、色々聞かされたわけだ。でもしるしってのが結局謎よねぇ」

結の声はさらりとしているのに、どこか鋭い。

「式が一昨日・・・で、今日のこの落ち込みようなわけね」

琴子は小さくうなずく。

結の手がぽんぽんと琴子の頭を優しく跳ねる。

「で、祓法の方の修業は始まったの?……まぁ、あんたの場合は下地はあるでしょ」

「下地……?」

「子どもの頃から清心流をやってたじゃない。私も一緒にやってたでしょ?あれはただの武術じゃないの。祓法の型の基礎。型を身体に叩き込んでる分、完成は早いはずよ。」


祓法の稽古は今日の夜から始まる予定だった。


結はすべてのことがまるで自然の流れであるかのように、理解しのみこんでいるようだった。琴子はそんな結を見て、自分の心がやはり幼子が積み上げた積み木のようにぐらぐらとしていることを再認識した。


「……まあ、仕方ないわよね。私も自分の置かれている状況に納得すのに3年くらいかかったわ、正直。祓師一族は25歳の年に、すべてを告げられる決まりなの。」

結の指がまた、唇に触れる。

「ただしね、その中で祓法を使って敵と実際に闘う人間は一握り。選ばれし者だけ。」

「……結ちゃん、詳しいのね。結ちゃんは闘ってるの?」

「そりゃぁ、私は選ばれし人間だからねッ!」

それを聞いて琴子の唇がほころぶ。

「今日の夜から、その、修行というのが始まるらしくて不安だったけど、少しだけなんかほっとした。」

「そうね、何でも相談してちょうだいね。でも、一つ、気になることが……」

結は顎に手を当てて、神妙な面持ちになった。

また蛍光灯が一瞬光を失ったようだった。

琴子はごくりと息を飲み込む。(な、なんだろう・・・)

「その・・・」

「その・・・?」

結の顔が再び琴子の頬に触れそうなほど近づく。



「その、旦那様は、イケメンなのかしらッッ!?」


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