第8話
琴子が目を覚ますと、そこには推しの姿が——ソウマ様が見えた。
ソウマ様は、 泣いてるように見えた。
そうして次の瞬間、どこか寂しそうに微笑んで、光の中に消えていった。
あの時と、同じだ。また、私の前からいなくなる—— 琴子は必死に手を伸ばし、叫んだ。
「ソウマ様ッ!!」
はっと気づくと、自分の手が空を掴むようにまっすぐに上に伸びていた。 視界に映ったのは、見慣れた天井の模様。琴子はここが離れの居間であることを思い出した。
「いやぁ、そんなに想われてるなんて、俺、照れちゃうなぁ♡」
颯の軽薄な声が耳に飛び込んできた。
琴子はそれを聞いて、恥ずかしさと悲しさが沸き上がるのを感じた。琴子には珍しく小さな怒りも感じた。推しを想う気持ちが、琴子にはあふれている。
ゆっくりと起き上がる。
しかしとても顔をあげることはできなかった。
「あぁ、ごめんごめん。ちゃかしすぎちゃったかな?でも、本当に嬉しかったよ。そんなに好きでいてくれたなんて」
「ちがっ、・・・あなたのことではないんです・・・!私はソウマ様が……」
琴子をまっすぐ射貫くように見つめるその瞳は、やはり、濃紺の瞳だった。
髪の色は違うが、着物をまとったその姿は、やはりソウマ様だった。髪の色が変わったくらいで私が見間違えるはずはない、琴子は確信した。
(これはやはりソウマ様である……!)
「どうして……」
「あー、信じられないよねぇ?まぁ、でも俺がソウマ様に間違いないんだなぁこれが。」
「……」
推しに会えた嬉しさは消え去り、その代わりに胸に広がったのは、言いようのない喪失感だった。 憧れのソウマ様が、目の前で軽薄な男、真神颯として存在している。
「俺、結構人気だったよねぇ。」
琴子は颯をじっと見つめた。やはり、ソウマ様である。まばゆい、完璧な存在。
「え、推しと結婚できるとかやっぱ最高でしょ?」
琴子は颯をじっと見つめた。これが、ソウマ様の真の姿……
それは、琴子が大切にしていた「推し」という存在を、根底から覆す出来事だった。ショックと混乱で、琴子は泣き出してしまった。
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