第6話

あれよあれよという間に話は進み、琴子が現実を咀嚼する暇もなく、婚礼の日はやって来た。 舞台は清園寺家に隣接する古い神殿。

数百年の歴史を刻む木の柱には祓詞が刻まれ、白い幕が風に揺れていた。


親族と関係者だけの小さな式──それでも、その場の空気は重く、琴子には呼吸さえ苦しかった。


式のしきたりにより、花嫁と花婿は互いに顔を覆う薄布を身につけていた。琴子は白い絹を垂らされ、視界の端が霞む。相手の顔も、烏帽子に添えられた布の影でよく見えない。


「ねぇ、緊張してる?俺と結婚できるんだよ?もっと喜んでいいのに」

小声で囁かれ、琴子は即座に横を向いた。また、目じりに涙の粒が押し寄せてきた。


場が静まり返り、神職が厳かに祝詞を唱え始める。


やがて、颯がその祝詞の長さにあくびをしかけたその時、神職の口から告げられた言葉に、琴子の心臓は跳ねた。


「〇年◎月●日――しるしを持つ二人の御身体が一つになる時、その力は最大となり、一族は永遠を得るだろう」


一方の颯は、薄布の下で嬉しそうに口を開ける。


「身体が一つになる、だってさ」


わざと聞こえるように囁く彼に、琴子は顔を赤らめてうつむくしかなかった。

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