第6話 森に潜む脅威
――森の中
半刻程進んだ頃だろうか……森の木々が太陽の光を遮り、薄暗い道を進んで行く。
街の人や薬師も食糧や薬草を採取しに来るだけあって、道はある程度踏みならされていて歩きやすい。
「嬢ちゃんが襲われたのはこの辺りだったか?」
「はい、もう少し先に進んだ辺りの薬草を摘んでいる時に襲われました」
モニカが先の方を指差しながら答える。
見た感じはどこも変わった様子は見受けられないが……ふと周りを見渡すと、シオンが木々の奥へ進んで行くのが見えた。
「おい、薬師の嬢ちゃん!勝手に離れるな!ったく……」
急いでシオンの方へ向かうと、木の根元に座り込んで何かを見つめていた。
「シオンちゃん、どうしたんだい?」
「先輩……この薬草、この辺りでこんなに見かけるのは不自然です」
「確かに、野生動物が食べてしまうから一箇所にこんなに残っているなんて珍しいな」
「ねえ、その野生動物ってあの兎のこと?何匹か頭だけ残されてるんだけど」
後ろからフラムも周りの様子を伺いながらこちらへ向かって来た。
「ほんとだ、この薬草を好んで食べてる兎……だが、首から下がないなんて」
「それに……気付いたか?いくつかの木の下に食塊が吐き出されてる。こりゃ猛禽類の習性に近いぞ」
猛禽類か……でもどうして丸呑みじゃなくて、頭だけ残す?
落ちている兎の頭を観察していると、アルデルトはある事に気付く。
「あ、この兎の首もと……何かに刺された痕が残ってる。モニカも同じような刺し傷が残ってたよね」
「はい、あの時は急に何かが飛びかかって来て、腕を刺されたんです。怖くて必死に逃げましたが……森の出口で倒れてしまって」
「強力な毒を持ってるみたいだからな、おそらく、その毒で獲物の動きを止めてから捕食しているんだろう」
カサカサ……パキッ
兎の死体や食塊を調べていると、近くの木の方から何かの気配を感じた。
「……何か、いる」
フラムが気配のした方を警戒し、クライスが声をあげる。
「全員、さっきの道に戻れ!なるべく木の近くから離れろ!」
フラムとクライスは肩に掛けていた剣を抜き、構えながらジリジリと皆の方へ後退する。
「俺が前に出る、フラムはそっちの三人を頼む」
クライスが剣を構えながら相手の出方を窺っていると、目の前の木の枝から『バサッ』と音をたてて黒い影が広がる。
「っ!」
来る、と思った瞬間、その黒い影が槍の様に突進してきた。
ギィン!
咄嗟に剣で弾くも、その反動で他の木の枝の方へ軌道を変えて飛んで行く。
早い……
「ちぃ、ちょこまかと面倒なやつだな!」
クライスも視線を外さず、相手の方を睨み付ける。
対策を考える間もなく次の突進が来る。
「くそ!」
クライスはさっきと同様に剣で弾こうと剣を構える……が、間合いに入る寸前に黒い影は片翼を広げて軌道を変えた。
「なにっ!……っ痛ぇ」
黒い影はそのままクライスの左腕に八本の甲殻脚で組み付き、尾の針を首の後ろを突き刺していた。
クライスの腕に取り付いたことで、黒い影の姿が顕になる。
なんだ、あれは?上半身は鷹や鷲に似てるが、下半分はでかい蠍の身体だけ縫い付けたような……まるでキメラだ。
「まずい、前に出るよ!アンタはクライスを連れて逃げな!」
フラムがキメラの元へ駆けて行くと、ヤツは翼を広げて木の方へと飛んでいく。
「……っ、ほんとに面倒ね!クライス!無事なの?」
「あ、ぐぅ……」
アルデルトが駆け寄り、容態を確認する。
「呼吸がうまく出来てない!毒の回りが早いんだ!」
「なんとかならないの?」
周囲を警戒しながらフラムが聞いて来る。
「今すぐ治療しないと手遅れになる!刺された場所が悪すぎる……」
「なら、さっさと治療して!コイツはあたしがなんとかするから」
危険だが、クライスを助けるためにはそうするしかない……
「私たちも手伝います!」
シオンとモニカも駆けつけ、クライスの治療を始める。そして、シオンが傷口に薬を塗りながらモニカに指示を出す。
「解毒用の軟膏を塗りこんだわ、モニカは傷口の治療をお願い……経口からの薬の投与は、無理ね……どうしたら」
「大丈夫、毒の治療は私がする」
「アル先輩?毒の治療なんて……」
「大丈夫よ、アルデルトさんは毒の治療が出来るの」
「でも、先輩は治癒術なんて使えないはずじゃ」
たしかに、二日前まではそうだったけどね……
「とにかく始めよう、早く治さないと間に合わない」
そう言って、クライスの肩口に手を当てて魔力を流し込む。
そうこうしてる間に、キメラはフラム目掛けて突進してくる。
「っは!」
フラムは突進に合わせて突きを放ったが、クライスの時と同様にキメラは翼を広げて軌道を変えて避ける。
「それは、さっきも見た!」
フラムは突きを放った体勢から、左側に回り込もうとするキメラに突きの姿勢のまま腰を落とし、剣を横に一閃する。剣はキメラの上半身と下半身を両断するべく迫っていく……
カン!
と、固い物に弾かれた音が響く。
キメラは蠍の胴体を海老の様に丸めて、剣を受けたのだ……
「なっ!」
フラムは予想外のキメラの反応に驚いたが、すぐに追撃をかけるために体勢を整える。
しかし、キメラはそのまま後方の木へ飛んで逃げていく。
「あの蠍の甲殻、守りにも使えるの?聞いてないわよ」
それはそうだろう……初めて見る生き物だからな。
フラムとキメラの攻防を横目に突っ込みを入れつつ、クライスの治療に集中する。
血流を確認し、毒がどこまで広がっているかを確認する。
「針が刺さったのは……椎骨動脈か?脳に直接毒が回ってる……急がないと」
傷口はモニカが治癒し、周囲の炎症や毒の広がりはシオンの塗り薬で多少遅くはなっているが、椎骨動脈から侵入した毒は血流に乗って脳幹に広がり始めていた。
「このままじゃ、呼吸が止まってしまう……まずは毒を取り除くんだ」
モニカの時と同じ様に、流した魔力で毒を捉える……そして、そのまま魔力とともに外へ霧散させる。
パァン、と魔力が弾けて毒を取り除くことに成功する。
「よし、あとは毒で損傷を受けた脳幹の状態を正常な状態に……毒の影響で止められている神経伝達を再開させれば……できた!これで……」
「……ヒュッ、かは!……はぁ、はぁ」
クライスの呼吸が正常に戻り始め、ひとまず安心するアルデルトたち。
「……すごい、本当に治してしまうなんて」
「実際に見たのは始めてですが、これは……」
シオンとモニカが驚き、感心しているとフラムが声をあげる。
「ちょっと!こっちはまだ終わってなっ!」
言い終える前に、飛んで来たキメラを剣で弾く。
ギン!
そのまま横の木へ飛んだかと思うと、すぐさま突進をしかけてくる。
ギン!……カン!……カン!……ギィン!
攻勢を増すキメラの攻撃に防戦一方のフラム。
その表情に余裕はなく、嫌な汗が頬を伝う……このままでは全滅してしまうと、脳裏に不安が膨らんでいく。
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