第5話 森の中へ

 ――クロイツ教会


 さて、教会に着いたものの……既に森の調査に向かう人員は揃っていた。

 年配のハンターが一人と、そのハンターが連れている新人のハンターが一人。

 薬師の方は、高齢のお婆さんと、見たことのある若い女性が一人……


「シオンちゃん……どうしてここに?」


「アル先輩、それにモニカまで?二人こそどうしてここに?」


 何故か学院を辞めた、シオン・クロイツがここにいた。


「私たちが今回の森の環境調査の依頼者なんだが」

「シオンこそ、急に学院を辞めたから心配してたのよ?まさかこんなところで会えるなんて」


「わたしは薬師の見習いとして、マドゥルク先生のもとで教わっているの」


「シオンの知り合いかい?それにしても、特任教授が同行すると聞いてたけど、随分と若いね?」


 マドゥルクと呼ばれた薬師の老人が、訝しそうにこちらを見つめる。


「確かに、若輩者ですが……どうぞよろしくお願い致します」


「ふぅん……歳の割には落ち着いてるじゃないか、気に入ったよ」


 何故か気に入られてしまった……


「そろそろいいかな?俺はハンターのクライスだ。こっちの娘は新人だが、なかなか見込みがあるやつでな。ほれ挨拶、挨拶」


「フラムと言います。まだまだ駆け出しですが、仕事はちゃんとこなすので、よろしくお願いします」


 面倒見の良さそうな中年のハンターと、燃えるような緋色の髪が特徴的な女性のハンターが自己紹介をする。

 フラムというハンターは、ちょっと勝気な雰囲気があって少し怖いが……


「こちらこそ、よろしくお願いします。では、早速ですが、今回の調査についての詳細を確認したいと思います。まずは……」


 森の環境調査をどう進めていくのか、大まかな流れや注意点などを話し合っていった。


 調査の決行は明日。

 森の手前に拠点を用意しておき、そこに最低限の物資を運んでおく。

 その拠点にはマドゥルクさんが待機し、森の中へはその他の全員で調査を行う。

 

 マドゥルクさんの歳を考えると、森の中を歩かせるのは危険というのもあるのだが、彼女自身「わたしは付き添いみたいなもんだからね、シオンだけでも充分仕事をこなせるよ」と言っていた。

 経験豊富な薬師からも認められるとは、さすがである。

 

 そして、肝心の調査対象だが……モニカの話を参考に特徴を確認したところ、外見は鳥のような見た目で、蠍のような脚と尾をしていたという。


「蠍の身体に鳥の羽がついてる?そんな生き物見たことがないな……」


 アルデルトがボソッと呟くと、隣にいたクライスが答えた。


「魔獣の類かもしれんな、魔獣化した野生動物も見た目が大きく変化するやつがいるからな」


「あれが、魔獣ですか……」


 モニカが神妙な顔で呟く。


「まぁその辺も調べてみねえとわからんがな。とりあえず、気をつけないといかんのは、そいつが空飛びなら近づいて来て毒針を刺してくるってことだな」


「ふむ、その生き物が単体で生息してるのか、群生する習性があるのかどうかも調査しないといかんだろうね……手に負えないと判断したらすぐに撤収することも視野に入れて動きなよ」


 クライスとマドゥルクの忠告を受け、他の四人も深く頷く。


「よし、拠点と物資の移動はこっちで人手を集めて用意しておくから、お前さんたちは必要な物を最低限用意して現地で集合……これでいいか?」


 森までの物資の運搬や拠点の準備をしてもらえるのはとても助かる。こういった事に慣れている人員がいると心強いものだ。


「ありがとうございます。こういった事は正直不慣れなもので……助かります」


「気にすんな。出来るやつが出来ることをする。仕事を円滑にすすめて、街の人達の安全を守るために必要なことだからな。そんじゃ、色々準備もあるしこの辺で解散でいいか?」


「心強いです。皆さんも意見がなければこれで解散でいいかと」


 周り見渡してみるが、全員静かに頷き……その様子を見てマドゥルクが口を開く。


「ふむ、今日のところはこれで解散だね?それじゃ、明日もよろしく頼むよ……シオン、帰るよ」


「はい、先生」


 マドゥルクがシオンを連れて先に戻っていき、クライスとフラムもそれに続いて教会を出て行く。


「慣れてないだろうが、無理せず気負い過ぎずにな。じゃあ、また明日ってことで」


 それを見届けてから、モニカと顔を見合わせる。


「クライスさんの言う通り、私たちも気負い過ぎずに頑張るか」


「はい、緊張しますが。頑張ります!」


 ちょっと力が入り過ぎな気もするが、初めての事だし、しょうがないか。


「それじゃ、明日のために物資を確認してから学院に戻ろう」


 環境調査とは言え、未知の生物の調査となると準備はしっかりとしておきたい。解毒薬なんかは薬師が同行してくれるから心配はないだろうが、護身用の武器は慣れない刃物は使わず、杖とバックラーを用意しておこう。


 ――翌日、クロイツ教会近郊の森


 アルデルトとモニカが森の入り口に着いた時には、既に他の四人も到着していた。拠点の周りには数人の武装した人達もいるが……


「お、来たか。これで全員だな?一応伝えておくが、拠点の周りに居るのは俺のハンター仲間や知り合いの傭兵だ。ここにその婆さんを一人だけ残しておくわけにもいかんし、物資を守ってもらうためにも俺が頼んでおいた」


「なるほど、そうでしたか。何から何までありがとうございます」


 確かに、街の外でマドゥルクさん一人と物資を置いたまま離れるは危険だ……やっぱり経験者なだけあって頼りになる。


「あたしゃ一人の方がゆっくり出来るんだけどねぇ」


「先生はともかく、物資に何かあったらどうするんですか?」


 シオンちゃん……結構言うのね


「ほっほ、それもそうさね。ほれほれ、こんなとこで油売ってないで早くお行き」


「ったく、元気な婆さんだぜ。それじゃ調査に行くとするか。兄ちゃんも嬢ちゃんたちも準備はいいか?」


「はい、私たちは大丈夫です」

「わたしもいつでも行けます」

「……早く行きましょうよ」


「っしゃ、調査開始といくかー」


 クライスを先頭にシオン、アルデルト、モニカ、フラムの順で森の中へと入って行く。

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