第7話 調査任務完了
攻勢を増すキメラの攻撃に防戦一方のフラム。
その様子を見ていたシオンが鞄の中から何かを取り出して、フラムに声をかける。
「ねえ、あいつの動きを少しでも止められない?わたしに考えがあるの」
「考え?やって、みるけど、大丈夫なの?」
フラムが攻撃を弾きながら確認する。
「ぶっつけ本番だけど、やってみせるわ」
「そっ!なら、やってちょうだい!……はぁ!」
掛け声とともにフラムはキメラの攻撃を上段からの切り下ろしで弾きに行く。
キメラはその隙だらけの動きを待っていたかのように軌道を変えてフラムの腕に取り付いた。
「今よ!」
フラムが叫び、シオンが何かを投げつける。
「息を止めて!」
パリン、という音と共に黄色い粉塵が舞う。
キメラがフラムの首に針を刺す寸前に、動きが止まり、腕から剥がれ落ちた。
「これで、終わりよ!」
グサッ!
キメラの喉元に剣を突き立てる。
「……あ、ごめん」
フラムは調査対象にトドメをさしてしまったことを咄嗟に謝った。
「いや、仕方ないさ……こいつは危険すぎる」
「それより、シオンちゃん……今のは?」
何か球体を投げた様に見えたが……
「ん〜、これは思い付きでやってみただけなんだけど……わたしも治癒術は使えなかったの」
それはセリナから聞いていたから知っているが、アルデルトは小さく頷く。
「小さな障壁魔法なら使えるの、それで、その中に麻痺毒の粉塵を詰めて投げてみたら、うまくいった……の」
障壁魔法は光の壁を生み出し、文字通り壁を作り出す魔法なんだが、それを粉塵爆弾にして投げつけたのか。
「ちょっと、うまくいかなかったらどうするつもりだったのよ」
フラムが呆れたように問いかける。
「やってと言ったのはあなたよ」
「それは、あんたが考えがあるって……」
やれやれ……
揉め始めた二人を他所に、キメラの死体を確認しに行く。
「本当に鷹と蠍の身体を縫い合わせた様な生き物だな……」
「なんだか、気味が悪いですね……鳥と虫が一つになるなんて」
「確かに、脊椎動物と無脊椎動物が……まさか」
アルデルトはある可能性に気付き、キメラに魔力を流し込む。血管の走行や、臓器などの位置を確認し、それは確信へと変わった。
上半身の鷹と、下半身の蠍、やっぱり別々の生き物だ……鷹の背骨を蠍の体に結びつけ、中枢神経を蠍の外骨格に張り巡らせているんだ。
「これは、人為的に作られた生物かもしれない」
「そんな、こんなものを誰かが作れるんですか?」
「魔力を流し込んで身体の作りを調べてみたけど、内骨格の生物と外骨格の生物を無理矢理繋ぎ合わせてるんだ……放っておいても生命の維持が出来ずに死んでいただろうね」
「こんなもの作りだして、誰が得するのよ」
「でも、これが何匹もいるって考えたら……相当危険よ?」
いつの間にか、フラムとシオンも近くに来てキメラを見つめながら話に加わっていた。
念のため周辺の様子も調べてみたが、これ以上の進展はなく、この森の環境調査は終了することにした。キメラの死体と、捕食した兎、吐き出した食塊を回収して拠点に引き返す。
その道中、アルデルトはクライスに肩をかしながらゆっくり歩いていく。
「すまねぇな、アル坊……俺が一番しっかりしねぇといけねえのに足引っ張っちまってよ」
クライスが申し訳無さそうに話かける。
「いえ、クライスさんが先陣を切って私たちを守ってくれたから彼女……フラムもうまく対処することができたでしょうから」
前を歩くフラムを見ながらクライスが続ける。
「あいつの観察眼も戦闘技術もずば抜けてるからな……俺なんかすぐに……いや、もう追い抜かれてるだろうな」
確かに、素人目に見てもあの速さで攻めて来るキメラに対処する反射速度も、剣の技術も相当なものだった。
「彼女は大物になりそうですね」
「違いねぇ……つうか、お前も大物になるんじゃねえか?」
「え?」
「毒の治療が出来る、その知識を世界に広めるなんてことになりゃ世界が放っとかねぇだろ」
「ははは、それは大袈裟ですよ」
そんなやりとりをしながら拠点へと戻る。
――森の入り口
マドゥルクさんが、私たちに気づいて声をかける。
「あんた達、無事だったかい?」
「ええ、何とか……調査対象の死体と検体もいくつか持ち帰って来ました」
「なんだい、こいつは?気味が悪い生き物だね」
「かなり攻撃的で、強力な毒針も持っているので危険です」
「……まだ、他にもいるのかい?」
険しい表情でマドゥルクが尋ねる。
「それは否定出来ませんが、周囲には見つけられませんでした。少なくとも自然発生したという可能性は低いと思われます。まずはそのことを学院長に報告しないと」
「そうかい……それなら早く帰るとしようか」
――クロイツ教会附属治癒師養成学院、学院長室
調査隊一行は街に戻り、各々、後処理や報告のために解散となった。
私とモニカは環境調査の報告をするために学院長室を訪れていた。
「……以上が、今回の調査の報告となります。ただ、私の見解としましては、この生物……キメラと呼称させていただきますが、これは人為的に作られた可能性が高いです。この可能性を視野に入れた調査を然るべき所へ依頼すべきかと思います」
学院長は眉間に皺を寄せて、神妙な顔で頷く。
「なるほどのぅ……この様な生き物を人為的に作ったとしたら、世界の秩序や生態にも影響が出る。わかった……この件はわしの方で対処を進めておこう。二人とも、ご苦労じゃった。ゆっくり休むんじゃぞ」
「はい、ではこれで失礼いたします」
……学院長室を出て、廊下を歩いていると見知った顔の女性と鉢合わせた。
「……」
彼女は無言でこちらを見つめてくる。
「セリナ、どうやら退学にならずに済んだよ」
「そうみたいね……それでどうして教授になんてなってるのかしら?それに、その子は?」
モニカの方を一瞥し、何故か不機嫌そうなセリナ。
「それは、説明すると長くなるんだが……この子は、モニカで、私の助手でもあるんだ」
「へぇ〜、そう」
「あ、ああ……」
「セリナさん、わたしたちは調査任務の後で疲れています。これから研究室で調査内容をまとめなければならないので、失礼しますね」
え?研究室で調査内容なんてまとめるの?
「そう、それは失礼したわね」
……どうしてこの二人、会ったばかりなのに、火花を散らし合っているんだ。
「では、ごきげんよう。アルデルトさん、行きましょう」
「お、おう……またな、セリナ」
「……ええ」
セリナと別れ、研究室までの道のりを黙々と進む。この沈黙の中、アルデルトは意を決してモニカに話かける。
「あの、モニカさん?何か怒ってる?」
「いいえ、怒ってなんてないですよ?あの人……セリナさんには注意……ぁ、いえ、ほんとに何でもないですよ」
「?……そ、そう?ならいいんだけど」
何が何だかよくわからないまま研究室に辿り着き、気になっていた事を尋ねる。
「それで、調査内容をまとめるって?」
「はい、まとめると言うよりは、アルデルトさんの治癒術を見て思うところがあったので、その確認を……」
「思うところ?」
「わたしの憶測ですが、アルデルトさんの治癒術は『治す』ではなく『元の状態に戻す』ことを考えてませんか?」
「治すことは、元の状態に戻すことじゃないの?」
「少し方向性が違うかと、アルデルトさんの治癒術は傷そのものではなく、その人の傷を治す力を正常な状態に戻してるのではないかと……」
「なるほど、治癒術を使う上で重要な想像力……私は健康な状態に戻すことを意識し過ぎてたってことか」
「おそらく、ですけど」
「いや、その考察は的を射ているよ!さっそく検証してみないと!モニカも手伝ってくれるか?」
「はい、もちろん!」
――治癒師として落第の印鑑を押された彼が、この出来事をきっかけに治癒術の新たな可能性を世に広めていくこととなる。
そして、後の世にも『アルデルト』の名は世界に革新を起こした治癒師として語り継がれていった。
落第治癒師の備忘録 松ノ ソナタ @xage0407
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