第2話 新たな治癒術

 ――クロイツ教会

 そこで娘の治癒を懇願する母親と遭遇したアルデルトは……


「あぁ!あなた、その制服は学院の方ですよね!?オルディンを、学院長を呼んで来て!早く……娘を」


「え、いや……」


 急にそんな事を言われても困るのだが、それ以前に娘の容態を考えると、学院まで行って学院長を連れてくる時間など到底無い……

 

 周りを見渡しても、誰もが手遅れだと、手の施しようがないと視線を背けている。

 

 額から冷や汗を流し、今にも止まりそうな呼吸をしている彼女を、助けようと駆け寄る者もいない……

 

 助けを求める人がいるのに、苦しんでいる人が目の前にいるのに、何故誰も助けようとしないのか、そのことに酷く虚しさを感じた。


「……なら、誰が、助ける?」


 治癒術も使えない自分が?

 助けられるわけがない……そんな事は自分が一番分かっている。


 それなのに……


 気が付けば、アルデルトは苦しんでいる娘に駆け寄っていた。


「ちょっと、君!何をしているんだね!?」


 神官の男が驚いて声をあげるが、アルデルトの耳にはもう聞こえていなかった。


 アルデルトは娘の手を取り、魔力を込める。


 何か……出来ることは……


 必死に考え、色んな資料や教材から得た人間の解剖生理学、治療法がないと言われる病の症状など、自分が持っている知識をかき集めた。


「左腕の外側に小さな刺し傷……周囲は赤く腫れ、炎症反応も見られる。毒に対抗するための反応……全身に冷や汗、末梢も暗紫色になってきている、呼吸も弱い」


 症状と知識を照らし合わせて、この娘に何が起きているのかを正確に判断する。


「……敗血症だ!でもどうすれば」


 更に魔力を込めて限界まで集中する……すると、この娘に流している魔力を通して、血液の流れが視認出来るようになっていた。

 それどころか、脳や様々な臓器が可視化出来るようになっている。


「なんだ、これ……いや、そうか!」


 可視化された臓器や血液の流れを診て、どうすれば治せるか想像するアルデルト。


「末梢の虚血、血管が広がりすぎて十分な血流が維持出来てないんだ……血栓は、まだ大丈夫か、それなら」

 全身の拡張した血管を正常な状態に戻るように想像し、魔力を込める


「……出来た!これで血圧は充分だろう。だけど、心拍数を同時に確保しないと……」


 自分の鼓動に合わせて……ドクン、ドクン……


「この間隔と強さを維持させて、肺の機能も、呼吸を深く、正常な状態を意識するんだ」


 アルデルトは心肺蘇生を魔力を通して行うように頭の中で想像し、魔力を流し続けた。


「よし、顔色も末梢の血色も良くなった……あとは、全身に回った、毒素を……うっ!」


 初めて使う魔力操作や尋常ではない集中力を同時に維持する事で、アルデルトにも大量の負荷がかかり意識が飛びそうになる。

 目は充血し、鼻血を流しながらも彼は治癒術をかけつづけた。


「ぐぅ……毒素を取り除くためには、免疫を作り直す?そんな時間は、ない……なら、この娘の、身体に流してる、魔力で、毒素を吸着させて、消滅させる!」


「ぐ!あああぁ!」


 自分の魔力で毒素を取り込んだことで、全身に針が突き刺さるような痛みを感じ、苦しむアルデルト……


「ああ!消えろ!」


 次の瞬間……パァン!と霧散するように魔力が弾けた。


 その場にいる誰もが、何が起きたのか理解出来ずに呆然としていた。

 だが、今にも命の燈が消えようとしていた娘の顔色は良くなり、呼吸も落ち着きを取り戻していた。

 それを見て緊張の糸が切れたアルデルトは、そのまま倒れ込み、消えゆく意識の中小さく呟いた。


「ぁぁ……よか、た」


「君!大丈夫か!おい!誰か、この若者と娘を奥の治癒室まで連れて行ってくれ!」


「ああ、モニカ!」


 母親も娘の名を呼びながら手を握りしめ、その温もりを感じて涙を流していた。

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