第3話

「もうー、なんであんなことなっちゃったのよ……」


 家に帰ると、自分の部屋へと籠った。そこで、筆箱を取り出して、勉強机に文房具を一つ一つ並べるのだ。全部が付喪神。私のことを守ってくれている神様なのだ。

 ただ、本当に守ってくれているのか、実際のところは微妙かもしれない。


 文房具なんて小さいものに、なにが守れるのかなって考えちゃうこともあるけど。

 だから、神様っていうよりも話ができるお友達っていう感じでいつも接している。


 文房具が並べ終わる前に、三色ペンのミイが話しかけてくる。


「あれは、絶対に私のせいじゃないからね。私は、ペンの付喪神の義務を全うしているだけだから!」


 相変わらず強気な物言いだ。私との関係性が一番長いから、遠慮のかけらもないのだ。それは、私からも同じことだ。



「ずっとずっと前から言ってるけど、外で話しかけるのは、やめてって言ってるでしょう!」


「今日のは、香澄が話せって言ってたでしょ!? そもそも、話しかけないで、どうやって勉強教えるのよ!?」



「けど、今日ので隼人くんにバレちゃったじゃん!」


「今日というよりも、もっと前からバレてたってことだよ。遅かれ早かれ、そうなるっていうの!」



 話は平行線をたどっていると、筆箱のが間に入ってくる。


「まぁ、いつかバレていたっていうのは、確かに思いますね。私も見ていて思いましたよ。いろんな人が、香澄ちゃんに注目してますよ。いつも」


「えっ……!? いつも!? そうなの?! それだったら、もっと早く言ってよー!!」


「いえいえ、香澄ちゃんにこのことを言ってしまっては、外でコミニケーションが取れなくなってしまうんじゃないですか?」


 筆箱のスズリは、なんでも知っているような物知りのような態度で言ってくる。



「そうは言ってもさ、私のことを考えてよー……」


 他の文房具は、みんなスズリの味方をしているようだった。スズリは、皆に祭り上げられていた。楽しそうに胴上げされ始めてしまった。


「はあ……」


 私の周りには、付喪神がたくさんいる。主に文房具だけれども、それ以外のものも付喪神として、私の傍にいてくれるのだ。

 一際よく喋りかけてくるのは、この三色ペンのミイ。私が小さい時から仲良しのペンの女の子だ。



「だから、いつも口酸っぱく言ってるでしょ? 授業を聞かないから悪いんだって」


「そうだとしてもさぁー? もうちょっと、工夫したやりかたとかあるじゃん? 筆記したりさ?」


「そっちの方がおかしいって、この前却下された方法でしょー?! 外でやるのはどうしても難しいっていう話をした時も、『家に帰ってからは時間がないから、効率的に授業の後にしよう!』って香澄から言ってきたんだからね? だから、その通りに、授業後すぐに説明してあげてるって言うのに。私に文句言われても検討違いだよ!!」



 赤色インクがはじけ飛びそうなくらい怒っている。これ以上怒らせると、本当にインクをぶちまけてしまうだろう。場を落ち着かせるために、少しトーンを落として答える。



「それはそうだけどさ。どうしよう、隼人くんにバレちゃったこと……」



 シュンとすると、いつも励ましてくれるのはクッションの由良ゆらだったりする。


「バレちゃったものはしょうがないですよ。これからどうするか考えましょ?」


「うん」


 この子、由良も私のお気に入り。

 小学生からずっと使っているクッションだ。喋る言葉も、柔らかく私を包み込んでくれるようだった。


 付喪神に囲まれた部屋。この部屋には、私が小さい頃からずっと使っている物が多いのだ。

「物持ちがいいね」って、周りの友達からは褒められることが多いけど、実際は付喪神として生きているのだ。そんな子たちを捨てちゃって、新しく買い替えるなんていうことは、普通の神経だったらできない。

 だから、私はずっと使い続けている、



「私たちは、ずっと部屋の中にいるんで、何が起こってるかなんてわかんないんですけどね」


「外に出ていても、ずっと筆箱の中だから私たちも分からないんですよ。もっともっと、使ってくださいよ!」


「いや、ハサミとかって使う機会がないからさ。ごめんね」


「そうだとしたら、今みたいに全員並べたらいいじゃないですか? そうしたら、机の上も賑やかになって楽しいですよ?」



 文房具たちが、羨望の眼差しで私のことをじっと見つめてくる。


 家の中では常に、すべての文房具を並べてある状態だ。

 これを外で実現したりすると、変な人扱いは免れないだろう。それも、この文房具に対して話しかけていると言う状態になってしまうとすれば、変人の域を超えて、危ない幻覚でも見ているんじゃないかと、通報されてしまってもおかしくない。


 丁寧にお断りをしなければ、私の身が危ないだろう。



「えっとー……。さすがに、外で並べるのはできないかな?」


「香澄のケチ!」



「そんなこと言われても、生命にかかわることに発展します。絶対ダメです!」


 みんなからブーイングが上がるが、そんなことよりも私は隼人くんのことが気になっていた。

 カッコいいからっていうわけじゃなくて、明日からどう接すればいいんだっていう。



「あぁ、もうなんでバレちゃったのかなぁ……。どうやって言い訳しようー……」



 私の心配をよそに、ミイはあっけらかんとして楽しそうにしている。


「言い訳なんて、意味ないよ! 知ってもらったんなら、仲良く一緒に話そう!」


 さも当然というような、仲間意識が芽生えているらしい。

 認識してくれる人を増やすのが、付喪神にとっての喜びなのかもしれないな。



「はぁー……。本当、どうしようかな……」

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