第4話

 十二月の冷たく澄み切った空気が、肌を刺す。

 学校の屋上に集まった私たち天文部員は、吐く息を白くさせながら、東の空を見上げていた。

 今夜は、ふたご座流星群が極大を迎える日。

 月明かりもなく、観測には絶好のコンディションだった。


「うおっ、今、流れた! でけぇ!」

「ほんとだ! あ、こっちも!」

「願い事! 願い事しなくちゃ!」


 健太郎くんや他の部員たちが、空を指さしては歓声を上げる。

 その横で彩葉ちゃんも「わあ、すごい……!」と目を輝かせていた。

 無数の星が瞬く、完璧な夜空。

 時折、すうっと尾を引いて闇を切り裂く光の筋。

 それは、息を呑むほど美しい光景のはずだった。

 

 なのに、私の心は、凍てついたみたいに静まり返っている。

 みんなのように、素直にはしゃぐことができない。

 部員たちの輪の中でで笑うレイの横顔が視界に入ることさえも、今の私にはつらかった。


「……光凛先輩」


 ふと、隣から彩葉ちゃんが声をかけてきた。


「少し、お話いいですか?」


 彼女は、みんなの輪から少し離れた、屋上の隅を手で示した。

 どきり、と心臓が跳ねる。

 昔みたいに、ただの可愛い後輩として、もう彼女のことを見られない。

 二人きりで話すなんて、気まずい。

 ……きっと、レイのことだ。

 そう思うと、足がすくみそうになった。


「……うん、いいよ」


 それでも、断ることはできなかった。

 私たちは、部で用意した魔法瓶から、紙コップに温かいコーヒーを注いだ。

 湯気の向こうで、彩葉ちゃんの顔が少しだけ揺れて見える。


「あの……前に、先輩にご相談した、レイくんのことなんですけど……」


 やっぱり。

 ぎゅっと、紙コップを握りしめる。

 聞きたくない。

 でも、聞かなければならない。

 彩葉ちゃんの表情は、どこか晴れやかだ。

 もしかして、あの告白のあとに何か進展があって、うまくいった、という報告なのかもしれない。

 そしたら、私は、なんて言えばいい?

 姉として、『おめでとう』って、笑ってあげなくちゃ。

 できるかな、私に。そんなこと。

 ぐるぐると渦巻く思考の中、彩葉ちゃんは、はっきりと、でも静かな声で言った。


「私、レイくんに、告白したんです。学校祭の、後夜祭の日に」


 ああ、知ってる。

 私は、それを物陰から聞いていた卑怯者だ。

 胸が、ずきりと痛む。

 喉が貼りついたみたいに、言葉が出てこない。


「……けど、振られちゃいました」


 彩葉ちゃんは、そう言って、てへ、と困ったように笑った。

 そんな、あまりにも予想外な彼女の言葉に、私は思わず目を見開いた。


「え……?」

「でも、レイくん、すごく優しくて。私が、星が好きなのも、光凛先輩に憧れて天文部に入ったのも、全部知っててくれてて。だから、これからも気まずくならないように、今まで通りでいようって言ってくれたんです」


 そうか。

 だから二人は、あんなに普通にしていたんだ。

 よかった。

 彩葉ちゃんが、深く傷ついていなくて、よかった。

 そう安堵する一方で、新たな疑問が、嵐のように心の中で吹き荒れる。

 なんで?

 どうしてレイは、彩葉ちゃんを振ったんだろう。

 こんなに可愛くて、一途で、素敵な子なのに。

 私の混乱を見透かしたように、彩葉ちゃんは、とどめの一撃を放った。

 求めてもいない、残酷な爆弾を。


「レイくん、好きな人がいるみたいです」


 時間が、止まった。

 風の音も、遠くで聞こえるみんなの歓声も、何もかもが聞こえなくなった。

 ただ、彩葉ちゃんの言葉だけが、頭の中で何度も何度も反響する。

 レイに、好きな人、が、いる。

 私は、吸い寄せられるように、部員の輪の中にいるレイに目をやった。

 彼はちょうど、流れた星を指さして、楽しそうに笑っていた。

 あの笑顔は、本当は誰に向けたいものなの?

 あの優しい瞳は、誰を映したいと願っているの?

 それは……絶対に、『姉』である私とは違う、誰か。

 その事実が、無数のガラスの破片になって、私の胸に突き刺さった。

 こうして、流星群の夜に、私はまた一つ大きな悩みを抱えることになったのだった。


 *


 街中が、赤と緑と、そして恋人たちの幸せそうな笑顔で溢れる日。

 クリスマスイブ。

 私は、プラネタリウムのカフェで、せっせとコーヒーを運んでいた。


「はい、お待たせしました。スターライト・ブレンド二つですね」


 幸せそうなカップルに笑顔を向ける。

 完璧な営業スマイル。

 心の中は、極寒のシベリアだというのに――。

 でも、今の私にはこの忙しさがありがたかった。

 オーダーを受け、運び、また、受ける。

 そうしているあいだは、余計なことを考えずにいられたから。

 そういえば、ちょっと前にもこんなふうに思ったことがあったっけ。

 あれも確か、レイのことで悩んでいたときだった。

 いつだって、忙しさで気を紛らせている私。

 成長してないな……と、ちょっと苦笑しながら、次のオーダーを届けるためにホールを動き回るのだった。


 最終上映の時間が近づき、客足が途絶え始めた頃だった。

 カラン、とドアベルが鳴って、見慣れた長身のシルエットが入ってきた。


「……レイ?」

「よっ」


 彼は、少しだけ照れくさそうに片手を上げた。


「あら、珍しいわね。こんなカップルだらけの日に、一人でなんて殊勝なこと」


 カウンターの奥から顔を出した月島さんが、からかうように言う。


「光凛。カフェの営業はもう終わり。あんたも、最終回の上映、見てきたら?」

「え、でも、後片付けが……それは申し訳ないです」

「誰があんたの代わりに片付けてやるなんて言ったのよ。あんた、明日もシフト入ってるでしょ。今日の分は、明日のあんたがやればいいだけの話」


 相変わらず、口は悪い。

 でも、その瞳が優しいことを、私は知っている。


「……ありがとうございます」

「まあ、そういうことだから」


 月島さんは、レイに向かって顎をしゃくった。

 レイと並んで、プラネタリウムのドームに入る。

 二人きりでここに来るなんて、本当に久しぶりだ。

 私がここでバイトを始める前、まだ中学生だった頃以来かもしれない。

 客席は、ほとんどがカップルで埋まっていた。

 最後に入った私たちは、他のお客さんの邪魔にならないよう、一番後ろに並んで腰掛ける。

 やがて、照明が落ち、月島さんの落ち着いたナレーションと共に、満天の星が頭上に広がった。


 きれい……。


 純粋に、そう思った。

 隣にレイがいる。その事実だけで、星空は、いつもより何倍も、きらきらと輝いて見えた。

 

 レイには、好きな人がいる。

 彼のその恋は、いつか実る日が来るのかもしれない。

 その時、彼は、私の隣からいなくなってしまうのだろうか。

 でも。

 きっと、それでいいんだ。

 私は、この先も、レイへのこの気持ちを、誰にも言わずに胸にしまったまま、生きていく。

 レイが誰のことを好きだって、構わない。

 家族として、一番近くで、彼の幸せを願おう。

 そして、もし、彼が私の手を離れて誰かの元へ行く時が来たら、その時は、笑顔で背中を押してあげよう。

 それが、私にできる、唯一のこと。

 私はまるで、悟りを開いたみたいに、不思議と心が穏やかになっていくのを感じていた。

 隣に座るレイの体温を、すぐそこに感じながら。


 上映が終わり、私たちは一緒に夜道を歩いていた。

 すっかり優しい気持ちになった私は、凪いだ心でレイの隣を歩く。


「……はい、これ」


 不意に、レイがコートのポケットから、小さな包みを取り出して、私に差し出した。


「え?」

「クリスマスプレゼント」

「あ……ありがとう」


 受け取って、包みを開けてみる。

 中から出てきたのは、小さな星をモチーフにした、繊細なイヤリングだった。

 銀色の、小さな、綺麗な星。


「……アクセサリー、なんて、初めてじゃない?」


 これまでのプレゼントは、可愛い文房具やキーホルダー、ちょっと珍しいお菓子なんかが多かった。

 こんな、女の子扱いされるようなものは、初めてだった。


「まあ、俺も高校生になったし?」


 レイは、得意げなような、照れているような、複雑な顔でそっぽを向いた。


「高いもんじゃないけど。……光凛ちゃんに、似合うかなって」


 その言葉に、胸が、きゅうっと締め付けられる。

 嬉しい。

 たとえ、これが『姉』へのプレゼントだったとしても。

 レイが、私のことを想って、これを選んでくれた。

 その事実だけで、幸せだった。


「……うん。すごく、綺麗。ありがとう、大切にするね」


 私が心からの笑顔でお礼を言うと、レイは少しだけほっとしたように、息を吐いた。


「で? 光凛ちゃんは? 俺のは?」

「……ない」

「えーっ、なんでだよ!?」


 驚いて声を上げるレイを見て、私はくすくすと笑った。


「うそうそ。ちゃんと、あるよ」


 鞄から取り出した少し大きめの包みを渡すと、レイは「開けていい!?」と子供みたいに目を輝かせた。

 私が頷くと、彼は嬉しそうに包装紙を破る。

 中から出てきたのは、ネイビーブルーのカシミヤのマフラーだった。

 彼の名前が、『RAY』と、端に小さく刺繍されている。


「うわ、すげえ……! いいの、これ」

「首、長くて細いから、寒そうだなって、いつも思ってた」


 つい、本音が漏れた。慌てて付け加える。


「まあ、センスある姉からのプレゼント、って感じっしょ?」

「……うん。すっごく嬉しい。ありがとう、光凛ちゃん」


 レイは、早速それを自分の首に巻いて、満足そうに笑った。

 その笑顔を見て、私も嬉しくなる。

 よかった。

 これでいいんだ。

 私たちは、これで。


「……まあ、レイも高校生になったし?」


 さっきの彼のセリフを真似して言うと、レイは「それ、俺のセリフ」と笑った。

 

 そんなことをしているうちに、私たちはとっくに終バスの時間を逃していた。


「お腹、空かない?」

「空いた……」

「ココアでも買って飲む?」


 公園の入り口にある自販機を指さして、レイが言った。

 私が頷くと、レイは「ちょっとここで待ってて」と、私を公園のベンチに残して、自販機の方へ歩いて行った。

 クリスマスイブにタクシーなんて捕まらなそうだし、ちょっと遠回りだけど、電車で帰るか――。

 そんなことを考えていると、不意に、すぐ近くから声がした。


「あれー? お姉さん、一人? イブなのに、寂しいねー?」


 見ると、二人組の男が、にやにやしながら私を見ていた。

 お酒の匂いが、ぷんと漂ってくる。

 酔っ払いだ。


「……連れを待ってるので」


 きっぱりと断るが、男たちはしつこく絡んでくる。


「まあまあ、そう言わずにさ。俺らと飲もうよ」

「結構です」


 立ち上がってその場を離れようとした私の腕を、一人が掴んだ。


「放してください!」

「いいじゃんかよ!」


 私は、その手を強く払いのけた。

 その手が、ばちん、と、思いのほか強く男の顔に当たってしまう。

 瞬間、男の顔色が変わった。


「……っ、てめえ、やりやがったな!」


 男が、拳を振り上げる。

 やばい、殴られる。

 ぎゅっと目をつぶった、その時だった。


「――やめろっ!」


 レイの、鋭い声が響いた。

 と、同時に。

 ドンッ、という鈍い音と共に、信じられないことが目の前で起こった。

 私に殴りかかろうとしていた男と、その連れの男が、二人同時に、まるで透明な壁にでもぶつかったかのように、真後ろに数メートル、ふっとんだのだ。

 それは、物理法則を完全に無視した動きだった。

 転がっている酔っ払いたちも、私も、そして駆け寄ってきたレイも。

 四人全員が、何が起こったのかわからずに、その場で呆然と動きを止める。


 そんな中、いち早く我に返ったのは、レイだった。


「光凛ちゃん、行こう!」


 彼は私の手を強く引くと、その場から駆け出した。

 さっきの酔っぱらいたちが追いかけてくる気配はない。


 しばらく走って大通りに出たところで、ようやく私たちは足を止めた。


「……ごめん」


 ぜえぜえと息をしながら、レイがぽつりと言った。


「レイのせいじゃないよ。というかむしろ、助けてくれてありがとう」


 私がそう言うと、レイは、力なく首を振った。


「ううん。……俺の、せいだ」

「え……?」

「俺、最近、変なんだ……」


 意味がわからず、黙ってレイを見つめる私。

 彼は、何かを決心したように、私の目をまっすぐに見た。


 *


 私たちは、煌々と明かりが灯る、二十四時間営業のファミレスにいた。

 ジングルベルのBGMがやけに明るく響く店内で、向かい合って座っている。

 お母さんには、『二人でご飯食べて帰る』とだけ連絡した。

 今年は特別クリスマスらしい食事の用意もしていなかったからか、特に何も言われなかった。


 レイは、テーブルの上で自分の指を組んだまま、何かを話そうとしては躊躇う、というのを繰り返している。

 そんな彼の姿を見ながら、私はぼんやりと小さい頃のことを思い出していた。


 昔、家の裏の小さな林に、二人だけの秘密基地を作ったことがある。

 拾ってきた木の枝や段ボールで作った、粗末な隠れ家。

 でも、そこは私たちにとって、世界で一番安全な場所だった。

 学校であった嫌なことも、誰にも言えない悩みも、その場所でなら、何でも話せた。

 一番に、お互いに。

 レイが見つけた珍しい形の石ころも、私がテストで百点を取ったことも、一番最初に報告するのは、いつも秘密基地だった。

 秘密を共有することが、私たちの絆を強くしてくれたんだよね――。


 そこまで考えたとき、目の前のレイが、ようやく顔を上げた。

 その瞳には、昔、秘密基地で私に打ち明け話をしてくれた時と同じ、真剣な光が宿っていた。


「少し前から、俺の周りで、おかしなことが起こってるんだ」

「……うん」

「笑わないで、聞いてほしい。……俺、たぶん、超能力者になっちゃったのかもしれない」


 突拍子もない言葉。

 でも、私は笑わなかった。

 さっきの、あの異常な光景を見た後では、笑えるはずがなかった。


「最初は、本当に、ちょっとしたことだったんだ。今思うと、バスが遅れたのも、俺が願った時に限ってだったし……」


 あの、私が何度も助けられた、バスの遅延。

 あれが、レイの超能力?


「終バスが行っちゃったって思った時も、来いって強く願ったら、本当に来ただろ。他にも、光凛ちゃんのスマホの充電切れたら困るって思ったら、ありえないくらい長持ちしたり。当たれって思ったら、自販機の当たりが出たり……。あの時、天文部の人数分当たったところで、怖くなってやめたけど、たぶん、願い続けてたら、いつまでも当たり続けたと思う」

「……」

「それだけなら、よかったんだ。日常のちょっとしたラッキー、で済むようなことなら。でも、だんだん、マイナスなことまで起こるようになった」


 レイは、苦しそうに顔を歪めた。


「あの朝、光凛ちゃんのお気に入りの皿、割っちゃったの……俺なんだ。わざとじゃない。でも、あの時、光凛ちゃんとちょっと気まずくなってて……俺が、イライラしたせいだ。ごめん」

「そんな……」

「理科の実験の時もそう。色々考え事してて、頭がごちゃごちゃになってたら……火をつける前のガスバーナーから、火柱が上がった。俺が、やっかいなこと考えなきゃ、って思った瞬間に」


 そして、さっきの、酔っ払いの件。

 いつだって、自分が強く何かを願ったり、感情が昂ぶったりした時に、おかしなことが起こるのだと、レイは言った。


「しかもこの力は、日に日に、どんどん強くなってる気がするんだ。このまま、自分で制御できないくらい、大きくなったらって思うと……怖い」


 それは、ごく小さい頃以来見ることのなかった、レイの弱さだった。

 いつもクールで、何でもできて、ミステリアスで。

 そんな彼が今、私の目の前で、怯えた姿を見せている。

 超能力……なんて、にわかには信じがたい話だった。

 でも、レイが嘘をついているとは思えなかった。

 点と点が、線で繋がっていく。

 ただの偶然と呼ぶには不思議すぎたこれまでのさまざまな出来事が、意味を持って浮かび上がってくる。

 彼の話しを信じれば信じるほど、私はレイになんて言葉をかけていいかわからなかった。


 *


 結局私たちは、そのファミレスで答えを出すことはできないまま帰宅した。

 そして、そうこうするうちに、高校は短い冬休みに入った。

 レイと私は、その時間を利用して、彼の力について色々と話をした。

 そして……ふと、思い出したのだ。

 学校祭に来た、あの胡散臭い男の人のことを。


「超常現象研究家の、皆神さん……!」

「……ああ!」


 レイからもらった名刺は、まだ机の引き出しに入っていた。

 よく見ると、その紙に書かれているのは、名前と肩書き、そして、電話番号だけ。

 いきなり電話なんて、ハードルが高い。

 でも、他に頼れる人もいない。

 私たちは、お正月が明けたら皆神さんに連絡してみよう、と決めた。


 冬休みの間、幸いにも、レイの力の暴走はなかった。


「ちょっとだけ、コントロールの練習もしてるんだ」


 ある日、レイはそう言って、テーブルの上の消しゴムを、手を使わずに、ほんの数ミリだけ動かして見せた。


「すごい……!」

「実は……透視もできるようになったし」

「ええっ!?」


 思わず、胸元を手で覆う。

 レイは、それを見て、悪戯っぽく笑った。


「うそだよ」


 そう言って、茶目っ気たっぷりにウインクする。


「も、もう!」


 顔が、かあっと熱くなる。

 ドキドキしたのは、透視されているかも、と思ったからだけじゃない。

 レイへの秘めた想いも相まって、心臓が、破裂しそうなくらい、うるさく鳴っていた。

 一時は、ぎくしゃくしていた私たちだったけれど、秘密を共有したことで、以前よりもずっと、話す時間が増えた。

 お母さんに聞かれないように、部屋でこそこそと話すことも。


 そんな私たちの様子を見て、お母さんは「すっかり仲直りしたのねえ」と嬉しそうに笑っていた。

 私も、嬉しかった。

 レイが、誰にも言えない大事な秘密を、私にだけ打ち明けてくれたことが。

 彼にとって、自分は、唯一の相談相手なんだ、と思えることが。

 

 ……この気持ちは、絶対に隠し通そう。

 そして、姉として、私が、レイを支えていくんだ。

 私の決意は、日に日に、強くなっていくのだった。


 * * *


 観測記録、248821。

 対象個体『REI』の特異性が、ついに対象個体『HIKARI』に開示された。

 彼の正体は……やはり、そうか。

 研究結果のデータを見ながら、私はため息をつく。


 彼は、予想以上に複雑な自己認識と感情パラメータを獲得している。

 そして、その存在自体が、この世界の安定性を著しく損なっている。


 これ以上の観測は、リスクでしかない。

 『HIKARI』のデータを守るためにも、そろそろ私が直接介入するべきなのかもしれない――。

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