第4話 終焉の秩序



夜のオフィスは異様な静寂に包まれていた。

蛍光灯の冷たい光だけが、長く伸びた影を壁に落とす。

浩司は地下倉庫で最後の確認を行う。眠らされた社員たちは指定の場所に整列し、注射で眠り続けている。

TNTはすべて仕掛け済み、タイマーもセットされている。残るは最後の行動だ。


「もう、ためらいはない…」

独りつぶやく浩司。

彼の顔には一切の感情がなく、あるのは計算と決意だけ。


オフィス内の警報装置を無効化し、監視カメラの死角を確認する。

透明化薬を全身に塗り、彼の存在は完全に消え去る。

空気のように、壁をすり抜け、廊下を進む。


まず最初の標的、営業部の山本。

彼は深夜残業でパソコンに向かっていた。

浩司は静かにスナイパーライフルを構え、狙いを定める。

トリガーを引く。

衝撃とともに山本は椅子から崩れ落ちる。

銃声は外部には届かず、廊下の防音も完璧だ。


次の標的は総務部の田中。

浩司は床下から侵入し、暗闇の中で影のように接近する。

注射器で眠らせ、TNTの設置済み机の上に慎重に移動させる。

すべて計画通り、証拠は残らない。


深夜零時、オフィスは完全な無人状態となる。

倉庫で眠る社員たちも、最後の爆破によって灰となる運命だ。

浩司は全員を見渡し、静かに微笑む。

「これで、秩序は完成する」


彼は廊下を歩きながら、最後のスイッチに手をかける。

壁に取り付けられた制御盤。赤いランプが点滅する。

深呼吸一つ、指先がスイッチを押す。


地下倉庫とオフィス全体で、同時に閃光が走る。

爆音とともに、TNTが炸裂し、建物は炎と煙に包まれる。

外の街灯が揺れ、遠くで火災警報が鳴る。


透明化した浩司はビルの影に身を隠し、燃え上がるオフィスを見下ろす。

瓦礫の中、眠らされていた社員たちは、炎と粉塵に飲まれていく。

かつての上司も、同僚も、社員全員が計画通り灰と化した。


街には異様な沈黙が戻る。

通報や消防のサイレンは鳴るが、浩司の存在を示す痕跡は一切ない。

現場は爆発事故として処理され、誰も疑わない。


夜明け、浩司は高台から燃え残るビルを見つめる。

冷たい風が吹き抜け、灰と煙が朝日に照らされて揺れる。

「これで…完了だ」

誰にも理解されない秩序。

だが、浩司の中では完璧な平穏が広がる。


彼はゆっくりと背を向け、都市の光に消えていく。

表情は依然として無機質だが、胸の奥では、唯一、計画通りの満足が静かに燃えていた。


世界は再び日常に戻る。

誰も知らない、静かな復讐の記録だけを残して。

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ヒラ社員 チャッキー @shotannnn

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