第3話 最強の結界魔法師は旧王家のお嬢様
~続・アークの記憶~
これは絶対に、生徒会が受けるべき案件ではなかっただろう。
「時にアーク・ヴィ・シュテリンガー。そなた、彼女はいるのかしら?」
真っ白なナプキンで口を拭いながら、上品に僕の身辺を探る女性が目で優雅に座っている。
ここは旧王家。
アイゼンバーク家の食事処、大広間だ。
城ではなく屋敷だった。ただそれでも、僕の家とは比較にならない広さを誇る。おそらくウチの3倍はあるだろう。食器や調度品のレベルも桁違いだ。
「答えはノーだ。ミズ.ライラ」
普段、家で食するステーキを遥かに凌駕するランクのサーロインステーキを頬張りながら、僕は質問に対して違うと言い切った。
実際、僕はまだ特定の女性と深い仲になってはいない。
なんか雰囲気でミズ.とかつけちゃったけど、大丈夫だったかな? 今の彼女はたぶん、僕の2つ上の年齢だから15歳とかだと思うし。
「あのチンチクリンな治癒科の幼馴染は違うのかしら? 同じクラスの東方幸薄剣士は? 脳筋の騎士団長も何気に怪しいですわね。いえ、それよりもあのお色気魔女。アレが何気に強敵ですわよね……」
「……」
めちゃめちゃ調べられてるんだが。
なに目的だ?
ちなみにあえてその文脈で答えるならば、デュネイはその中で最も強敵ではない相手になる。単純な実力勝負なら話は別だが。
「いずれも僕の彼女ではない」
「えっ!? や、やっぱりそうですわよねッ! あのシャンバラヤで悪魔的な強さを見せつけた極悪貴族のアーク・ヴィ・シュテリンガーが、あんな小娘やBBAと付き合うワケありませんわよね?」
まぁ、そこはあんまり因果関係がないような気もするが。
「僕は、女に
「はぁ、よかった……」
「?」
なにが良かったのかはわからないが、あまり強気でグイグイ来られても食事がマズくなるだけので、落ち着いてくれたなら助かった。
てか、この付け合わせのポテトうまっ!
「そ、それはそうとアーク・ヴィ・シュテリンガー」
「アークでいい」
いちいちフルネームで呼ばなくていいよ。
「(トゥンク)あっ……アーク? アークですって……そんな、ファーストネームを呼び捨てだなんて、
まったく気を揉まなくてもいいところだぞ、ライラ。
「お嬢様。そろそろ本題を」
実はライラの斜め後ろで直立していた、執事らしきじいさんが彼女を促す。
「う、うるさいわね、ロイ!
いや、ナイスだ。ロイじいさん。
ホンモノの本題があってよかった。
このまま食事を共にしながら、まったくどうでもいい与太話だけを延々と聞かされ続けたらどうしようかと思っていた。
「手短に頼む」
もうだいぶ腹も満たされた。
長居をするつもりは毛頭ない。あくまで今日は面識を持ち、ある程度の関係値を得られればそれでいいと考えている。
ただ、欲を言えば……
将来、最強の結界魔法師となるであろうこのライラ・アイゼンバーグが、現状どれほどのレベルの使い手であるかは、知っておきたいところではあるのだが。
「あっ! え、えっと。あ、あの……ア、アーク……くん……」
別に呼び捨てでいいんだけど。僕、後輩だし。それにさっきまでの勢いはどうしたんだ? なんで目を合わせなくなった? もしかして、手短にって言ったのが自尊心を傷つけちゃったのか?
やれやれ。
もう少し言葉を選んで繋ぐか。
「ああ、すまない。ここへは生徒会役員としての立場で来ている。課外活動ではあるが、学園内規であまり夜遅くなることを推奨されていない」
「わ、わかっていますわよ……」
なんか残念そうに見えるのは気のせいだろうか?
「解決してほしい問題はなんだ?」
もうズバッと聞いてみた。
「ふぅぅぅ。ま、まぁ端的にいいますと、護衛をお願いしたいのです」
「護衛?」
「ええ。実はここ最近、学園内で
ああ、なるほど。
学園内でのストーカー対策をしてほしいってことだな。
それならすぐに解決できそうだ。
「了解した。キミの家から手練れを数名出せるよう準備しておくといい。学園内で護衛の任にあたれるよう手配しておく」
よし、これで解決したも同然だろう。
彼女は旧王家の人間なんだから、
これでアイゼンバーグ家に恩は売れただろう。
僕の存在も認知させられると思うし、成果としては十分だ。
さぁ、もう要件は済んだな。
僕はこれから家に帰り、さっき生徒会室でもらったお菓子を広げて夜のティータイムを満喫しなければならない。
「い、いや……
「話は終わりだな。夜も更けて来た。僕はこれでお
だからそれは僕じゃなくてもいいだろ。
小声で言ったつもりかもしれないが、僕は耳がいいから全部聞こえている。
「アーク、くん……」
「いい夕食だった。礼を言う」
そう言い残して席を立ち、大広間をあとにしようとゆっくり後ろを振り向いた、その時だった。
「……帰さない」
「……」
「帰さない、ですわよッ!」
僥倖だった。
まさか、こんな場面で彼女の結界魔法を拝めるとは思いもしなかった。
「(ふむ……)」
薄く虹色がかった半透明な結界が、広間の端から端まで行き渡り、僕の行く手を完全に塞いでいる。
魔力濃度と効果範囲からして、この魔法は……
「
ライラの鼻息が荒くなっている気持ちはよくわかる。そう豪語しても滑稽ではないくらいには、この結界魔法は強力だ。
相当な魔力濃度と鉄壁具合だ。
原作で彼女が敵側の時、僕はこの結界魔法に何度煮え湯を飲まされたことか。
並のレベルの使い手じゃ、発動した瞬間に手も足もでなくなるだろうな。
だが……
「構成が綺麗すぎるな」
「えっ?」
「
僕は人差し指の先に魔力を込め、結界で最も魔力が集中している箇所にその魔法を流し込んだ。
すると……
「あっ……」
ピシッという小さな音が一瞬だけ鳴り、その後はまるで蜘蛛の巣が一気に張り巡らされたようにヒビが広がり、結界は粉々に砕け散った。
虹色の結界だったので、粉となった結界膜に宿る魔力の残滓がキラキラと輝きながら舞い散っていて、とても綺麗だった。
「魔法書に書いてある通りの、お手本のような結界だった。ただそれだけでは実戦で役に立たない」
まぁ、15歳で扱える時点で規格外の才能ではあるんだけれども。そんな教科書通りの魔法じゃ、この僕には通用しないかな。
「アーク、くん……」
「だが、大した才能であることは認めよう。これからも懇意にして……ん?」
あ、執事のロイじいさんが僕を睨みながら屈強なおっさんを二人連れてきた。
護衛、その人たちでいいんじゃないのか?
「アーク様。ライラ様はアーク様に護衛をやってほしいのです」
「僕は生徒会の人間だ。他にも対応せねばならん問題をいくつも抱えている」
まぁ、ほとんどメルトがやってんですけどね。
「個別にそこまで首は突っ込めないと?」
「無論だ。生徒会は公器。旧王家の人間とは言え、そこは平等だ」
そこまでの正義感もないんですけどね。
ただ個別対応は本当にちょっと勘弁してほしい。面倒だ。
「メルト・ジャンルイジ・セルスフィアに関する重大な接触の報告を、我々アイゼンバーグ家が持っているとしても?」
「!?」
こ、このじいさん……
いったい何者だ?
「ちょっとロイ! そんなどうでもいいコト、いま言わなくったっていいわよ!」
「し、しかしライラ様……」
「もう、いいですわよ! アークくんなんて知らないからっ!」
いや、ちょっと待って
そんなのおかしいじゃないですか。
だって、そっちのほうが完全に本題ですし……
「いや、あのだな……」
「申し訳ございませんアーク様。非礼をお許しください。ささ、ライラ様はこう申しておるので、お引き取りを……」
「ライラ」
「(トゥンク)な、なんですの?」
「僕が護衛をするのは本当に難しいんだ。だが、たまに相談には乗ってやれる」
「えっ?」
「週に1度、ここで夕食を
あまり下出に出てはいけない。
僕はあくまで極悪貴族だ。決していい人なワケではない。
こちらからお願いしてはいけない。
立場は常に僕が上に立っていなければ示しがつかない。
「いえ、アーク様。ライラ様はもう二度と……」
「ロイは黙ってなさいッ!」
「へっ?」
「も、もちろんOKですわよっ! お父様には
◇
こうして僕は週1回、アイゼンバーグ家で夕食をご馳走になる約束をライラと交わした。そしてその交流は、ライラが「もう来なくていいですわよ」と言うまでその後10週間くらい続いた。
ちなみに、メルトに関する新しい情報については、通い始めて9週目くらいにようやくロイから教えてもらえた。
それはたしかに重要と思わせる内容だったが、結局のところは確たる証拠もない不完全な情報でしかなかった。正直ガッカリした。食事は毎回美味しかったが、それだけの時間に費やしてしまった。
そんなこんなで、3か月ほどの時が過ぎ――
そして、現在に至っている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます