第17話 新たなる周回地

「入学おめでとう! 偉大なる同士諸君たちよっ!」


 演出チックな学園長の尊大そんだいな挨拶とともに、入学式典は幕を開けた。


 隣に座るメアの眼が輝いている。

 気分が高揚しているのだろう。話をしっかり聞くつもりでいるみたいだ。


 僕は基本的に暇だ。

 なので一度、脳内にある今の状況と今後の予定を整理したいと思う。




 この学園で僕が学ぶべきことと言うのは、正直少ない。


 なぜなら、ここで得られる魔法の知識や技術という点においては、すでにそれ以上の経験を入学前に積み上げてしまっているからだ。


 ここでの主目的はひとつ。

 すなわち、原作主人公メルトによるアークへの断罪を回避すること。


 そのために僕が主にやらなければならないことは大きくふたつある。それは学園で覇権を握ることと、そして自身のさらなるレベルアップだ。


 まずは覇権について。


 シナリオが改変傾向にあるとわかっている以上、僕が今持っている原作知識は補足程度にしかならないと心得ている。


 それでは足りない。

 メルトはもう、僕の知っているメルトではないと思っておいたほうがいい。


 破滅回避を確実なモノとするためにはまず、学園内での自身の地位を固め、仲間を拡張することこそが、ここでの最優先事項のひとつだと僕は考えている。

 

 周囲を固め、メルトを孤立させることがなにより重要だ。

 包括的に自身の身の安全を確保するための行動を、戦略的にとる必要がある。


 情報収集も怠ってはいけないだろう。


 メアにはメルトとこれ以上、仲良くならないよう釘を刺しておいたが、それでも周囲からヤツの身辺を探るように命令だけは下しておいた。


 最初は渋々ではあったが、なんか色々と手を尽くしたら納得してくれた。


 また、彼女の身辺警護のことも忘れてはいけない大切なことのひとつだ。入学式でくさびは差しておいたが、メルトのメアに対する危険度が確実に減ったワケではないからね。


 そのためにひとつ考えていることがある。

 メアに監視をつけるというアイディアだ。


 ウチの使用人、ゲッティが今のところその第一候補だ。


 彼女、実は僕のお世話係だけやらせておくにはもったいないほど優秀な人材であるとことが、のちの付き合いの中で判明した。


 敏捷性能はなんとなく把握していたが、それ以外の能力でも、情報収集能力や適応力の高さなんかもずば抜けて高ったのだ。なので彼女が適任だと思っている。


 父に交渉して、異次元の賃金アップを実現すれば、悪い話ではないはずだ。


 きっと受けてくれると信じている。


 次に僕自身のレベルアップの件だ。

 現時点において、僕が直接戦闘でメルトに勝てる保証はなにもない。


 すでに病気エンド回避のための肉体改造は終結したと認識している。ここからは、メルトに必勝できるだけの自信と能力を獲得するための、より過酷な鍛錬が必要になってくる。


 幸いなことに、この王立魔法学園『グリンガム』周辺には様々な高難度ダンジョンが点在している。


 場所によっては、ミルちゃんが改造したエニグマダンジョンを遥かに凌駕りょうがするようなダンジョンがあることも知っている。


 ステータスは未だ全てがオープンになってはいない。なので今、自分がどの程度強くなれたかは感覚的な物差しでしかわからない。


 まぁそこについては、メルトの現状ステータスが僕の想定内でなくなっている可能性が高い以上、突き詰めても知ったところであまり意味はないだろう。


 この件はとりあえず一旦横に置いておく。


 ただそれでも、学園の覇権を握るために政治行動を繰り返しているだけではおそらく足りないんだ。自己の肉体を鍛え続けるという選択は必須。


 破滅を確実に回避するためだ。

 自身のさらなるレベルアップは、日々の継続な努力をなくして語れない。




「……諸君らの輝かしい未来に期待する!」


 ようやく学園長のありがたくもない長い話が終わり、式典はお開きとなった。


 入学初日の予定はこれだけだ。

 本格的な学園の手続きや授業なんかは明日から始まる。


「よし。行くぞ、メア」


 式後の行動スケジュールはすでに決めていた。せっかくだから、これから毎日周回する予定のダンジョンを事前調査する。


「うん、帰ろう!」


「いや、これから下見に行く」


「下見?」


「そうだ。メアもついて来い。これは命令だ」


 彼女には事前に言ってなかったけど、まぁ幼馴染だし、そのくらい別にいいだろ。


 ちなみにこれからのダンジョン周回には、メアも同行させるつもりだ。


 いくら彼女にゲッティの監視をつけるとはいえ、やはり自分の身くらいは自分で守れるくらいには強くなってもらわないと困る。


 僕やゲッティがいつでも助けられるとは限らないからね。


 敵は駆逐できなくとも、せめて危険を察知してその場からすぐに逃げられるくらいの胆力や行動力くらいは、このダンジョン周回で身につけてほしいと願っている。


「な、なんでまたアンタが命令するのよっ! で、でもまぁ、今日はこれから特に予定ないし、アークがどうしてもって言うなら、別に……」


「どうしてもだ。頼む。君の力が必要だ」


 真剣な表情を作り、目を直視して本気でお願いしてみた。


「(ドキンッ)はえっ!? そ、そんなにお願いするなら聞いてあげても……でも、下見っていったいどこへ……」


「ガストラダンジョン」


「えええええっ!!」


 目的地を伝えると、メアは目の玉が飛び出しそうなほどに驚愕きょうがくした。



 ガストラダンジョン――



 致死率60%を超える、グランドテイルズでも屈指の超高難易度ダンジョンだ。これまで数々の冒険者を葬り去った魔界のような場所。


 冒険者ギルドが指定する攻略難度はS。


 地獄級になったエニグマダンジョンでもせいぜいがAクラスだと思うので、また次元の違う周回の日々が楽しめる。


「問題ない。少し雰囲気を見たいだけだ。戦闘の予定はない(たぶん)」


「絶対よ! ちょっと見に行くだけだからねっ!」


 と、いうことで。

 僕たちは早速、ガストラダンジョンへと足を運んだ。





「きゃあああああ!!」


「よっと」


「いやあああああ!!」


「ほいっと」


 なんだよ。

 難易度S級っていうから期待して来たのに、この程度かよ。


「戦わないって、言ったじゃないのーー!!」


「ん? ああ、すまん」


「ああああああ!!」


 ま、地上1階入口付近の敵なんてこんなものか。

 このガストラダンジョンは地下25階層まである。


 さすがにもう少し下っていけば、僕の想像を超える強敵にも出会えるだろう。


 メアの強制レベルアップも僕にとっては大事なコトだ。自身を鍛えることも大事だが、仲間のレベルアップも僕にとっては死活問題。


 だからしばらくの間はまず、ここで彼女を鍛える時間を優先する。

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