第10話永遠の幽咲

に光はほとんど戻らなかった。闇だけが広がり、黒い花弁が無数に揺れている。

幽咲は息をするかのように静かに夜を支配していた。僕の身体も心も、ほとんどは花に侵されていた。再開の記憶も、抗った証も、溶けて黒い花弁の一部となった。

胸の奥の光は、かすかに残り、消えそうで消えない。「もう楽になれる」花の囁きは絶対で、抗う力はほとんど失われていた。それでも、心の片隅に、小さな温もりが残る。

あの夕暮れに再開した彼の声、手の感触、笑顔。それは、完全に消えたわけではなかった。

黒い花弁が僕を包み込む。体は闇に溶け、思考が断片となる。けれど、胸の奥でかすかに光が揺れる。それは、希望というよりも、「まだ、僕はここにいた。」という証のようだった。夜明けは訪れない。闇は深く、庭は静まり返る。それでもー幽咲の揺れの奥、僕の中にほんのわずかな光が残っていた。ー完全に終わったわけじゃない。


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化けの花 青夏 水蓮 @Nziai

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