第8話夜明けのない庭
夜明けは訪れなかった。庭は深い闇に覆われ、黒い花弁が無数に揺れ続ける。
あの光は、もう遠い記憶の中だけに残っていた。僕は立ち尽くす。抗った。
何度も手を伸ばし、幻影に囚われた自分を振り払い、再開した彼の記憶を胸に握りしめた。
けれど、花は容赦なく侵食する。冷たく絡みつき、身体の感覚を奪い、思考を曇らせていく。幽咲の一つ、一つがかつて抗えなかった者たちの残像だと分かる。そしてその列の最後に僕自身も並ぶ運命を感じる。「ここにいれば、楽になる。」甘く囁く声が耳に刺す。幻影か、花かもう区別がつかない。抵抗する力も、希望も、少しずつ溶けていった。気付けば、庭は静まり返る。揺れる黒い花弁に包まれ身体も、心も、光を失っていた。
再開できた彼の記憶も、抗おうとした証も、すべて花に飲み込まれ、夜明けのない庭に消えた。闇の中、幽咲は揺れ続ける。そして僕も、その一部となった。光はもう戻らない。
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