第7話抗う夜

の闇は、あの夜のまま凍りついていた。黒く揺れる花弁の中で、僕は立ち尽くす。

冷たく湿った空気の中で、再会した彼の温もりを思い出す。あの瞬間の光が。今の僕を支える唯一の羅針盤だった。「ここにいれば、苦しまなくていい」花は囁く。その声はあまりに甘く、あまりに危険だ。けれど、僕の耳に届くのは、確かに彼の声ではない。幻影だ。

花が作り出した、偽りの姿。目を閉じる。そして、思い出す。本当の彼の笑顔。手の温もり。あの夕暮れ、再会できた瞬間の胸の高鳴り。「僕は騙されない」低く。確かな声で呟く。手を伸ばしても、花弁は絡みつき、冷たさを身体に染みこませる。それでも、僕は抗う。「逃げるんじゃない。僕たちは。ここで終わらせない。」幻影の彼は笑う。けれど、僕は視線を逸らさない。光を信じる心が、闇に飲まれそうな自分を引き戻す。庭の中、幽咲は無数に揺れている。一歩、また一歩。侵食される身体に痛みを感じながらも、僕は前へ進む。それが僕の抗いの証だ。ー夜は深い。けれど希望はまだ消えていない。闇の中で立ち尽くす僕の目には、あの夕暮れの光が確かに残っていた。まだ終わらせはしない。まだ、あの光を取り戻す。


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