第6話浸蝕
再開の光は、夜の闇を一瞬だけ照らした。あの瞬間、僕は彼の温もりを確かに感じた。
けれど、それは束の間の安らぎに過ぎなかった。
庭に立つたび、花は少しずつ姿を変え始める。黒く艶やかに光る花弁が、彼の声を真似るように震えていた。「まだ、ここにいるよ」その声は、あの夜の優しい声に似ていた。
無意識に手を伸ばす。だが、指先に触れた瞬間、花弁は冷たく、ざらついた感触で肌に食い込んだ。夢と現実の境界は次第に曖昧になり、記憶の中の彼と花の幻想が混ざりあう。
手を伸ばすたびに心が揺れ、体は少しずつ花の冷たさに侵されていった。
庭を見渡すと、数えきれない幽咲が揺れていた。その一輪一輪がかつて抗えずに取り込まれた者たちの残像だと直感する。「ここにいれば、苦しまなくていい」花は優しく囁く。その甘い声に胸の奥が締め付けられる。それでも僕は思い出す。5話のあの夕暮れ、彼と本当に再開できた温もりを。その記憶こそ、今の僕を支える唯一の光だ。「僕はあきらめない」
小さくけれど確かに声をだす。花は揺れ、影は濃くなる。侵食は止まらない。けれど、僕の心にはまだー抗う力が残っていた。夜は深い。花は無数に揺れ続ける。それでも僕は、闇の中でひとり立ち続けた。ーまだ終わらせはしない。
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