3話「平穏の青(2)」
小鳥の囀りを聴き、カーテン越しに差してくる光で目を覚ます。
「ぅぅ゙〜〜ん……。」
寝ぼけ眼で壁に掛けられた時計を見れば、もう8時を回ってしまったらしい。
「…………はちじ……うぅ……。」
8時になれば彼女は家にいないと思われる。だから静けさが包むこの家にただ一人で居るしかない。暇にはなるけど本棚には数■冊もの本があるので案外大丈夫かもしれない。
1階に降り、テーブルの上に置かれている食事が入っている器を手に取り電子レンジで温める。
ちんっ、と小さく鳴った音を聴いてそちらに向かう。
温まった器を取り出しテーブルに置く。もう一度キッチンへと行き、カトラリーを持ってイスに座った。
「…………!」
今日の朝食はいつものパンと野菜スープと茹で卵だ。
今日もパンは甘くて美味しくて、野菜スープは野菜炒めの余りもののような具材で、茹で卵は茹で卵だ。
それをのんびりのんびりと食べて、終えた頃には9時になりかけていた。
(…………美味しかった。)
(本を読もう。)
リビングの……少し硬めのソファに腰掛け、のんびりと本を読む。
今読んでいるのは……『Stillness』という題名の本だ。内容を簡単に纏めるなら 記憶を失った主人公が自分の事を思い出しながらホテルに泊まる。……主人公の設定がよくあるやつで成されている物語だ。
私が好きな登場人物はエレベーターの人……だろうか。定期的に起こる記憶ミスに愛嬌がある。そこが好きだ。
その物語が中盤に差し掛かりかけた時。私以外は誰もいない筈の家の中から気配を感じた。
玄関の鍵は閉められているのを確認してあるし、カーテンは開けても(この時間帯では)窓は開けない。見知らぬ人が入れるところはこの家には無い…………筈。
室内であるのにカツカツとヒールの音が響く。
こういうのは気付かないフリをするものだと、何時ぞやに読んだ本に書いてあった気がする。こういうのは私の気の所為で、本当は誰もいないのだと。私はそう信じたい。
そう信じたかったのに、冷たい両手がひとりと私の顔に触れ、そのままゴキリと音を立てて真後ろを向く事になった。
あぁ……知らない人がいた。この家に知らない人がいる。
身に着けているその帽子はまるで魔女のよう。
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