4話「とある乙女の希望の星」

「……戻らなくてもいいわ。」

「戻らなくてもいいから、もう少し気付かれないように行動しなさいよ。」

「…………。」

「はぁ…………もう。」

向けられている猟銃を見て、こちらはナイフを構える。

「それっぽく、やってやるわよ。」

「だから……ちゃんと逃げなさいよね。もう帰って来る事が無いように。」

私は深紅の猟師の胸元にナイフを突き刺さんと駆ける。

それを見た深紅の猟師は銃の引き金を引く。

彼が使っている銃。それに使われる銃弾は1発放つだけで途中で銃弾が裂けて10発の銃弾になる。だから避けるのは難しい。…………まぁ、漆黒の鳥なら出来るかもしれないけれど。それでも私には難しい。

彼の能力に何故か付いているおまけは、その10発に更に数発が足されるもの。…………能力におまけがあるのは、私が覚えている程度の情報なら彼くらいだった筈だと思う。歳を重ねると覚えたものが失くなってしまうので困ってしまう。

そう思ったところで、私は鼻で嗤ってやった。

(分かってたのに見ないフリをしていた私への抗議よ、多分。)


今の私が躱せる銃弾は無い。正面に来た銃弾は3発分。このナイフは使いすぎて切れ味が悪い。だから切れても2発まで。

(…………今回は1発切って、残りの全弾は受けるしかないわね。)

ナイフで顔へと来た銃弾を切り、残りの銃弾を全て身体で受けた。

「う……っぐ……。」

銃弾が肉体を貫いた感覚と痛みに苦しむ。

真っ赤なドレスのおかげで血は気にならない。

(…………瀕死の状態で……生きられないかしら…………。)

もう力が抜けてきた。

「…………最近……ちょっとサボってたのよ…………。」

「昔からの悪いクセでね…………」

彼は引き金に指を置いたまま、私の話を聴いてくれているらしい。

「人間は、辛い事や……苦しい事があるとね…………どうしても逃げちゃうの…………。」

「…………。」

「貴方は、どう……?」

視界が揺れる。身体が震えて倒れる。

「……………………。」

「……信じる」

「…………?」

「…………。」

「……久しぶりに、聞けたわ…………。貴方の……声……。」

「…………ごめんなさい。」

「いいの…………いいのよ……。」

「貴方は、何も………………悪く……」

起きているのか、眠っているのか分からなくなってしまった。


「……いい……?深紅の猟師……。」

「貴方はきっと…………童話同盟の、皆から追われるわ……。」

「だから……いらないものを、外に投げて…………壊すの……。」

「分かった…………?」

「……うん。」

「……………………ちゃんと……逃げるのよ……。」

「私…………もう……つかれ……った……から…………。」







だから、少しだけここで休むわね。

また、会える時があったらその時は………………………………今度こそ、仲良くしましょう?



もう、水色の乙女はいないから。貴方の居場所は細部まで捜さない限りは見つからない筈よ。

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