7章『努力家は疲れてしまった』
1話「なんと家の沈黙事」
都市の■番街。そこの学校のうちの1つ。そこの生徒になんとかさんと呼ばれている人物がいる。
本名は不明。能力は不明。全て不明。そんな不思議な生徒だ。
そして、俺のクラスにそのなんとかさんがいるらしい。
…………どうしてこんなに曖昧な感じなのかというと、そんな生徒がいる覚えが無いのである。まぁ、存在感が薄いだけだとは思っているが。
カラカラと車輪は回り、ガタガタとクッションから上は揺れる。物を使わないとどこにも行けない私。不安定なこの世には要らない不燃物。
指と指を絡ませ膝掛けに添えるように置いた。
誰かが教室の窓を開けたらしい。窓の外から流れてきた風に髪を撫でられた。
瞼を下ろして、風の温かみを楽しむ。それは私の心を落ち着かせる為の行動。
少しして、視線を感じた。
瞼は上げない。私からは話さない。
だって、きっとこの目は嫌われる。この口は余計な事を言う。
そうなる前に、私は封じたのだ。私はきっと、ずっとこのままなのだ。
それでいい。ずっと、もうずっとこのままがいい。
そうすれば、もう諦められる。私はこの人生を諦めて朽ち果てる事が出来る。諦めたら、私が植えた種が根を張り枝を伸ばして降りてくるから。
あの人が、私の代わりに育ててくれた樹の枝に括り付けて迎えの縄を用意しているから。
(…………あ、そっか。そう思えばもうじき死ぬのか。)
カラカラという音が聴こえてそちらを向いた。
開けられた窓から流れ入ってくる風。それを目を閉じて感じている、車椅子に座った人物がいた。
あんな人は俺の記憶通りならいなかったように思える。もしかして、あの人がなんとかさんなのだろうか。
目を閉じ、口は開かない。静かな人だ。
…………話しかけても大丈夫なのだろうか。
俺はその人に近付き、少し間を開けて立つ。
「あの、すみません。」
「…………。」
「……貴方が…………なんとかさんですか……?」
「…………。」
「…………。」
「…………私は」
「………………。」
一言話しかけて黙ってしまった。
声は小さかったが、このくらいなら聞き取れる。
「あの…………その」
「どうしてなんとかさんと呼ばれているんですか。」
「………………知らない。」
「意味がない。」
そう言って、その人はカラカラと車椅子の車輪を手で回しながら教室から出て行ってしまった。
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