2話「墓場にいない死体に御機嫌よう(2)」

暗く永い夜。なんだか淡く輝く月。

ぬるく湿り気のある風が模索の肉体を優しく撫でる。

歩いた道がふわふわと歪んでしまったかもしれないけれど、模索がそれを樹にするかと言えば………………まぁ、否か。


カツン…………カツン…………と。靴の裏のピンヒールが地面に触れて音を鳴らす。

触れる度に歪んでしまうのに、それに気付く事はないのだろう。




カツン…………。

つい足が止まってしまった。

視界にお互いの影を捉えたらしく、足が勝手に駆けていく。







_________ゴンッ、という音でその場に止まる。

片方は両足の先を整えた立ち姿で地を踏み武器を腕で受け止め、もう片方は受け止められた事に驚きつつも“次”の準備をしている。

「……お前、死体って名前なら墓場でうろちょろしてたらどうなの。」

「私の名前は死体ですが、種族は人間ですよ。」

「あぁそう。」

「どなたですか。」

「私?私の名前なら…………あれ、なんか君に教えなくていい気がする。」

「いえ、教えてください。」

「う〜ん……。まぁいっか。」

(ふざけたらどんな反応をするのかねぇ…………。)

「わてくしは〜……模索。………………これでいいかな?」

「えぇ、素直な自己紹介をありがとうございます。」

(はッ。内心馬鹿にしてやがるなこの女。心の声が気持ち悪いくらいにこっちに漏れ出てんぞ。)

(ま。内容に興味はないから勝手にしてろ、って話なんだが。)

「このような夜になんのご用ですか。……まともな用では無いのでしょう?」

「まぁね、うん。確かにマトモじゃあ無いかもね?」

「…………早く言ってください。」

「はいはい。…………………………焦りすぎかな。」




「……そっち五情人のリーダーと話がしたいからさ、許可欲しいんだけど。どう?おーけーしてくれたりってしない?」

「…………する訳ないでしょう。」

「だよね。」

「所属はどこですか。」

「無所属。もしくは個人。」

「対価は。」

「う〜ん……そうだなぁ。…………じゃあ、誕生日をこっちの仲間にする。」

私がそうを言うと、少し嫌そうな顔をした。ま、裏切られたと思っているから嫌そうにしているだけだろう。

(ま、裏切ったのはそっちなんだけどね。勝手に他人の名前名乗ってるんじゃないよ全く…………。)

目の前で立ったままの彼女死体は腕で私の武器を振り払った。

「わお。なんか凄いね、強そうだ。」


「で、どうしますか。戦いますか?」

「能力発動させて、武器出した人がそれ言うんだ…………言うの遅くない?」

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