だからどうだというのか

　僕の職場に台湾からの技術者が派遣されてきた。

　なんでも彼らは最近始まったプロジェクトに必要な機械の立ち上げをしてくれるとのことだった。

　僕はほんの少しだけ英語を喋ることが出来たので、上司から台湾からの技術者のお世話係として任命された。

　彼らは日本語が喋れなかったので、コミュニケーションの手段として英語もしくは通訳アプリを使っての会話となった。

　お世話係といってもやることはさほど難しくなく、施設の案内や食堂の予約、あとは困ったことがあったら上司へ連絡するくらいの仕事だった。

　そんな中、僕がいつものように技術者の方の近くで自分の作業をしていると、別部署の先輩がウロウロしているのが見えた。

　喋ったことがないが確か僕より3つほど上の先輩だった気がする。

　先輩は僕と目が合うなり、僕の方へ歩いてくる。何か僕へ用事でもあるのだろうか。

　しかし、僕は今の部署に配属されたばかりのぺーぺーなので先輩のお役に立てることは何1つないと思うのだが……。

　先輩は僕の近くに来るなり、こう話しかけてきた。

「Do you have……」

　……なんで英語？

　僕の頭の中は疑問符で満たされ、あんまり内容が入ってこなかった。

　先輩は英文を詠唱してる途中で気づいたのか、「あっ……」と気まずそうな顔をした後、突然日本語で自己紹介を始めた。

「俺、〇〇部の田中！」

　いや、さっきまで英語話してただろ貴方。

　……ん？

　そこで僕は気付いた。

　あっ、この人僕のこと台湾人だと思ってるな、と。

　確かに日本人も台湾人も顔は似ていると思う。だからといって去年入った同じ会社で働く社員の顔を覚えていないのかという気持ちはあるが。

　ちなみに先輩の用件はメジャーを持ってないかというものだった。

　それを台湾の人に聞いてどうするんだと思ったが、僕は快く上司の所有物であるメジャーを先輩に差し出した。