誤解しないで
ドアの向こうは、小学校の教室だった。
あれれ?ここは学校の教室だったのか。そうか、ここって学校なんだ。じゃ音楽教室の先生は追ってこないな。小学校から音楽教室は自転車で行かないといけないぐらい遠いんだ。
僕は安堵して、自分の席に座った。
座ったけど、ん?なに、この股の感覚は?僕は椅子に座っている自分のズボンを見下ろした。小学校の制服のズボンは黒色だから、ぱっと見では濡れているかわからない。でもびしょびしょの感覚がある。
え?まさかおもらし?はじけるように立ち上がり、周りを見る。
大理石の床に水たまりが広がっていた。
ちがう、僕じゃない。と思ったけど、この風景に見覚えがある。去年のあの時にタイムスリップしたのか。
あの日、授業中に必死でがまんしていたら、先生が黒板から落ちそうなチョークを空中キャッチ!その流れで動画サイトで流行ってたお笑い芸人のポーズをとったんだ。クラス全員が爆笑した拍子に、おなかに力が入って体の中のダムが決壊しちゃった。授業はあと1~2分で終わるところだったのに。
実は決壊前もちびってた。ちびった瞬間ズボンが温かくなって、それが冷えたところにまたちびって…を繰り返してたんだ。ちびる直前の下腹部のピクピクする感覚は、もう自分の力じゃどうにもならないってわかるんだ。そのピクピクが連続してきた時に、先生の渾身のギャグがきた!
決壊すると温かいのがドバッ!下腹部にお湯を注がれてるみたいな感覚だった。クラス全員に気づかれた直後、チャイムが鳴った。
いや、今はあの時じゃない!あの時と違って今はパンツをはいたままおしっこなんてしてない。ちゃんと玉座に座ってから、自分の意思で気持ちよく出したんだ!
そう言いたいのに言葉が出ない。あの時と同じようにクラス中が僕をじっと見ている。がやがやという声がぼわんぼわんとこだまする。
人垣の向こうに、茉奈ちゃんの不安そうな顔が見えた。ああ…人生オワタ。絶対見られたくない子なのに。目の前が真っ暗になった。
待てよ!茉奈ちゃんなら証言してくれるはずだ。さっき僕がおもらしせずトイレに入ったことを!トイレに行ったばかりなんだから漏らすわけないって!
でもその直後、茉奈ちゃんに申し訳なくなった。なんと茉奈ちゃんが僕のすぐ横にしゃがみ込み、床の水たまりを自分のハンカチで拭いているのを見たからだ。
遠くにいた茉奈ちゃんがどうやって急に近づいたか?その疑問は消えた。さっき茉奈ちゃんがいた場所は照明が消えたように暗くなっていた。僕の周りだけが明るいんだ。気がつくとがやがやした声も消え、周りには誰もいない。茉奈ちゃんは幼稚園児みたいに小さくなっていて、ふと僕を見上げて微笑んだ。「大丈夫ですからね、お兄ちゃん」という声が頭の中に直接響いた気がした。
「ちがう!さっき音楽教室のトイレでちゃんとおもらしせずに入るところ、茉奈ちゃんも見ただろ!」
誤解を解こうとしたけど、喉から声が出ない。気づけば僕は茉奈ちゃんが幼稚園児であることをすっかり受け入れていた。
もどかしさで「ううう…」と唸り声が漏れた。よし、この調子だ!僕は思いきり「うあっ!」と叫んだ。
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