第5話
005
「遺体が盗まれたって一体どういうことなんですか!?」
「す、すみません…正直我々としても何が何だか…」
自殺した娘の遺体が盗まれたと聞いて、すぐにZ葬儀社のオフィスへとやってきた月岡の両親に、担当者は申し訳なさそうにペコペコと頭を下げた。
当然納得できない両親は、担当者にさらに詰め寄る。
「ちゃんと説明してください」
「娘の遺体が盗まれたって…一体どういうことなんですか…!?」
「は、はい…ええと…最初から説明させていただくとですね…」
担当者がハンカチで額の汗を拭いながら話を始める。
ことの顛末はこうだった。
月岡志乃の志望が病院で確認された後、遺体は葬儀社に引き渡された。
葬儀社は、葬儀の日程が来るまで遺体を遺体安置室に保管しておいた。
それが今朝、オフィスに遺体安置所から突然、月岡志乃の遺体が消えているという連絡が入ったとのことだった。
「遺体が消えるなんて…そんなことがるんですか?」
疑心暗鬼の目を向ける両親に、担当者が頷く。
「我々も正直このような事態は初めてでして… …ご遺体は確かに遺体安置所でお預かりしていたはずなのですが……昨日の未明に突然消えてしまったんです」
「どういうことなんですか…」
「遺体が盗まれるなんて…どうしてそういうことが?」
「わかりません。誰がなんの目的で月岡さんの遺体を盗んだのか我々にも分からなくて…」
「そもそも遺体はそんなに簡単に盗み出せるものなのですか?」
まさしが胸中に抱いた疑問を口にする。
「遺体安置所のセキュリティはどうなっていたんです?まさか鍵をかけずに置いていたわけではないんでしょう?」
「もちろん違います。遺体安置所には当然鍵がかかっていて関係者以外は立ち入れないようになっていますし、監視カメラも設置され、警備室から確認できるようになっています」
「ならどうして…」
「そ、それが…」
担当者は言い淀んだ。
何か自分でも納得がいっていないことがあるかのように複雑な表情を浮かべる。
「どうかしたんですか?」
「これは……ひょっとすると見てもらった方が早いかもしれない」
「なんです?」
「見てもらいたいものがあるんです」
担当者は両親を一台のパソコンモニターの前に誘った。
「これは?」
「遺体安置所から送ってもらった昨夜の映像です」
「…映像?まさか盗まれる瞬間を捉えたのか?どうして警察に連絡しない?」
「いえ…それができない事情があるのです」
「どういうことだ?」
「とにかく見てもらった方が早い」
担当者が2人の前で遺体安置所から送られてきたという映像を再生する。
映像には、遺体安置室の映像が映し出されている。
いくつかの台の上に、遺体が並べられており、白い布を被せられて保管されている。
「この真ん中の台…これが月村さんの遺体となります…」
担当者が指を差した。
2人が映像を覗き込む。
「この時点で確かに月岡さんの遺体はここにありました…ですが、少し映像を飛ばして……3時間後、見てください…」
「「…っ!」」
両親は大きく目を見開いた。
「消えている!!」
「どういうことなの!?娘の遺体はどこに行ったの!?」
先ほどまで確かに台の上に横たわっていたはずの遺体は忽然と消えていた。
こずえが担当者に詰め寄る。
「どうして遺体がなくなっているの!?」
「わ、我々にもわかりません……この時間帯になって突然遺体が消えたんです…どうしてこんなことになったのか、我々にも分からないんです」
「映像を巻き戻してみてくれ。誰かが遺体安置室に入って娘の遺体を運び出したのかもしれない」
「わかりました。映像を巻き戻します」
すでに結果がわかっている担当者は、それでも両親に納得してもらうために映像を巻き戻す。
両親は食い入るように映像を覗き込んだ。
遺体が消える1時間前から、30分前、10分前とどんどん映像を遺体が消えた時刻に近づけていく。
「5分前…この時点でまだ遺体がここにあるのが確認できます」
「そのようだな…ここからどうやって遺体が消えると……ん?」
まさしが映像を食い入るように見つめる。
「今、動かなかったか?」
「え…?」
「今、布が少し動いたような気がした。確かに揺れたぞ…ほら、見てくれ…」
「あ、あなた…?変なこと言わないで?そんなはずないわ…」
「いや、確かに動いたんだ…少し巻き戻してくれ…大体20秒ぐらい前だ。そう…そのあたりだ…そこで止めてもう一度再生してくれ」
「は、はい…」
担当者がまさしに言われた通りに映像を巻き戻し、そして再生する。
「よくみててくれ…足のところが少し動くんだ」
「そんなことあるはず……あっ」
「…!」
半信半疑で映像をみていたこずえと担当者が口を大きく開ける。
まさしの言ったように確かに、遺体に被された布が少し動いたのがはっきりと見えた。
見間違いではなく、布は確かに映像の中で動いていた。
「か、風かしら…」
「なぁ、遺体安置室には空調のような設備が設置されているのか…?こんな感じで布が動いたりするほどの風が吹いているのか?」
「い、いえ…」
担当者は首を振った。
「もちろんご遺体を腐らせないために、遺体安置室は冷房設備によって低温に保たれています。ですが風が起こるほどの威力はありません」
「…どういうことなの?」
3人は無言になる。
ごくりと、担当者の喉が動いた。
「布が動いた原因は分からずじまいか……」
「ねぇ、もうすぐ遺体が消える時刻よ…」
こずえがそう言って画面を指差した。
遺体が消える時刻までカウントダウンは残り数十秒を切っていた。
こずえとまさしは、娘の遺体が消えた原因を突き止めようと、画面を食い入るように見つめる。
「ん?なんだ?画面がぶれて…」
「ちょっと……!?どうなってるの!?」
もう少しで遺体が消える時刻になるというその時、突然画面の映像が乱れた。
ザザザとノイズが走り、再び映像が正常に戻った時には台の上にあった遺体は完全に消えていた。
2人は顔を見合わせる。
「どういうことだ!?映像がないじゃないか…!」
「消えたわ…!娘の遺体が……志乃の体はどこへ行ったの!?」
「わかりません…我々も映像を確認したのですが、このように突然画面が乱れ、治った時にはご遺体はもう…」
「あなた方が細工したんじゃないでしょうね!?」
こずえが担当者に詰め寄る。
担当者は勢いよく首を振った。
「まさか…!そんなことはしません!!」
「じゃあ、この映像の乱れはどういうことなの!?肝心の遺体が消えるところが写っていないじゃない…これじゃあ何も分からないわ…」
「すみません…しかし、なぜかこの部分だけ、このように映像が乱れ、カメラが正常に機能しなかったようなのです」
「ねぇ、あなた……これって、誰かが監視カメラに細工をしたんじゃないかしら……何か妨害電波を飛ばしたりしてカメラを狂わせて、その間に志乃の体をは盗み出せしたんじゃないかしら…」
「その可能性はゼロじゃない…だけど限りなく低いんじゃないか…?」
「どうして…?」
「まずそんなことをする理由がわからない……そして、仮にそうだったとしても、映像が乱れる時間は経ったの数秒間の間だ。こんなに短い間に死体を運び出せるとは思えない…」
「…っ」
こずえはまだ何か言いたげに口をパクパクとs焦るが、結局意味のある言葉は出てこなかった。
担当者は、申し訳なさそうに俯いている。
まさしは担当者に言った。
「仮に誰かが遺体を盗んだとして……建物の外に出すには、入り口かもしくは出口を通るはずだ……その映像はないのか?」
「あります。遺体安置室は地下にあるのですが、地上にある出口へ行くにはリフトに乗り、そこから監視カメラのついている廊下を通らなければなりません」
「そ、その映像はないのか…!!」
「あります。ですが…だめなんです」
担当者が首を振った。
「どういうことだ!?」
「我々の方ですでに確認しましたが、職員以外誰も写っていませんでした。遺体が消えた時刻の映像も確認しましたが、リフト内の監視カメラ、入り口へとつながる廊下を写した監視カメラが共に映像が乱れていて…」
「なんだそれは……三つのカメラが同時に故障したとでもいうのか?」
「は、はい…」
「そんなのあまりにも不自然すぎるわ…」
「同感だ。そんなことが果たして本当に起こるのか…」
「我々としても信じられない思いです…今までカメラの故障など一度もなかったものですから…」
「「…」」
申し訳なさそうに俯く担当者に2人は何も言えなくなってしまう。
その後2人は、リフトと廊下の監視カメラの映像も確認をさせてもらったのだが、担当者の言うように、遺体が消えた時刻の映像が乱れ、はっきりと確認することができなかった。
だが担当者から聞いてわかったのは、遺体が消えた直後、地上へと上がるリフトに一度だけ作動履歴が残っていたと言うことだけだった。
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