13 答案、返却

 ついにテストが返ってくる日になった。俺のふだんの平均点は70点より少し多い程度なので、やや不安である。まひろと豪は心配するまでもない。問題は直言である。

 直言はふだんわりとウェーイグループにいて、引退する前はサッカー部にいたが、半ば幽霊部員だったらしい。

 なにがきっかけで、俺たちのいつメンと呼べるほどの友達になったのかは正直覚えていない。なんというか「集まると居心地のいいメンバー」で集まった感がある。

 直言の成績が心配であった。


 さて、1時間目は数学のテストが返ってきた。よし、79点。直言のほうを見ると目をキラキラさせている。俺に答案を見せてきたので見ると、なんと80点だった。


 続いて国語。俺は89点ほど。国語は好きで得意なのだ。直言は78点とこれまた過去最高記録を叩き出していた。


 その次は英語だ。俺は79点。直言は78点であった。トントンの結果と言えるだろう。


 理科は好きな内容が範囲だったので78点を取れた。直言は82点である。


 最後の社会科は俺は68点。直言は調子がよかったのか77点をもらっていた。


 俺の平均点は78.6点であった。

 直言の平均点は79点だった。


 なんと直言に平均点で負けてしまった。そんなばかな。軽くショックを受けつつも、直言は大真面目にきちんと勉強していたもんなあ……としみじみと感慨に耽る。


 なおまひろの平均点は86点、豪の平均点は92点であった。どれだけ頭いいのお前ら。


 ◇◇◇◇


「きょうは! テストが終わった記念ということで! ダンジョンで打ち上げパーリィしようと思いまーす!!」


 豪の言葉とともに、チャットが湧き上がる。


『88888888』


『テストどうだったん?』


「テストはみんな平均70点越えで、とっても調子がよかったです!」


 まひろが嬉しそうにそう言うと、チャットはまた盛り上がった。


『ダン中ってみんな地味に賢いんだな』


『好奇心は賢さの証明だからね』


 まずはポテチを広げる。直言が慣れた手つきでパーティ開けをして、ついでにコーラも用意する。それだけでなくカントリーマァムやキットカットもあるし、飲み物はジンジャーエールもある。

 ダンジョンにござを引いて、ローテーブルを置いてお菓子を盛り付け、みんなで食べる。コーラやジンジャーエールも飲む。


「今回のテストは先生がたがアベンジャーズを組んでくれて、そのおかげでおれはいい点数取れたんです」


 直言がしんみりとそう言う。


「直言くんはもとから賢いんじゃないの? 勉強のやり方がよくわからなかった、というだけで」


 まひろの冷静な意見。


『先生がたがアベンジャーズ組んだってなに』


『きっと悪い点数取ったら配信やめろって教育委員会あたりに言われたんでしょ それで教員のこいつらのファンが結託して指導したのでは』


『↑事情通か』


『テストお疲れ様! 高校に行くと赤点というのがあるぞ!』


 どん、とすごい額の投げ銭が飛んできた。おうふ、となる。


「投げ銭ありがとうございます!」


 そんなやりとりをしていると、ダンジョンの水路から半魚人が現れた。


「暴君ハバネロ食べさせたらどんな反応するかな」


 豪が手元の暴君ハバネロの袋を開けながらにやりとする。


『やめとけ』


『しかしこれはダンジョン学的に大変貴重な資料映像では……!?』


『ダンジョン学の進展と罪なき中学生4人、どちらが大事かのトロッコ問題じゃん』


 豪は暴君ハバネロをひとつつまむと、半魚人の口にほいと入れた。

 半魚人は鼻から湯気を笛吹きケトルのごとく「ピイー!!!!」と噴き上げ、しばし悶絶したあと、懐からなにか取り出した。


 今度は真珠じゃない。枝サンゴだ!


「これもらっていいの?」


「フギョギョ」


 まひろに向かって頷いて、半魚人は水に潜っていなくなった。


「またなんかすごいの手に入れちゃった……」


「これもダンジョン庁に送りつけるか」


『ありがとう! そしてありがとう!』


『ダンジョン学が進展するぞ……!』


 ◇◇◇◇


 打ち上げパーティを楽しみ、地上に戻ると、清臣さんが困った顔をして立っていた。


「どうしたんですか」


 直言が清臣さんの表情を伺うと、清臣さんは後ろに止まっている黒塗りの高級車をチラリと見た。いかにもすごく悪い人かすごく偉い人が乗っていそうな車だ。


「ダンジョン庁の長官が、みんなに話があるんだって」


 テレビ案件どころではないではないか。

 車から降りてきたのはダンジョンに興味のある人なら誰でも知っているダンジョン庁長官だった。顔は覚えているが名前は知らない。


 なぜか俺たちの公式名刺を作って持っていたまひろと、ダンジョン庁の長官が名刺交換をして、なにがあったのか、という話になった。


「君たちにはぜひとも特待生として、東京のダンジョン科のある高校に入学してほしい。君たちが卒業するころには一般へのダンジョン配信が許可されるし、それに合わせて自律ドローンカメラなどの開発も進んでいる。君たちの親御さんは私が口説こう」


「でも……おれんち貧乏なんで、東京暮らしするお金ないっす」


「僕の親は市内の進学校に進学しろと言うと思います」


「わたしも危ないことはちょっと、って言われそうですね」


「俺もちょっと東京暮らしがイメージできないです……」


「大丈夫。寮費も食費もすべて政府が払う。東京までの移動費も出す。夏休みや冬休みに帰省したければその旅費も出す。それでどうかね?」


「……要するに、俺たちをきっかけにして、ダンジョン科の高校を周知しようってことですか?」


 俺がそう尋ねるとダンジョン庁の長官は困った顔をした。


「ダンジョンは日本にだけ現れ、さまざまな効果のある素材を産出している。つまりこれから日本の経済を支える基幹産業となる。それをここまで面白く伝えてくれるのは君たちだけなんだ」


「それは、政府の配信を面白くすればいいだけなのでは?」


 まひろのもっともな意見を聞いて、長官はうぬぬ、という顔をした。


「君たちの力が、いま日本には必要なんだ」


「でもわたしたち、ただちょっと人気者になってお小遣いが手に入ればいいなーくらいの気持ちで配信を始めて、高校生になってからのことは高校生になってから決めようって約束してるんです」


「そうです。大人になってからもダンジョン配信するかは分かりません。楽しいからやってるだけです」


 直言がずばりと言った。

 ダンジョン庁の長官は、諦めたようにひとつため息をついたのだった。(つづく)

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