12 テスト、迫る
テレビの密着取材の話題で、いつメンLINEは激しく盛り上がった。直言はぜひやろうと言い、豪はそれはちょっとと言っている。このままでは喧嘩になってしまうと思ったので、まひろに回答期限を聞く。2週間後だという。密着の期間は2日間で、学校で中学生する様子とダンジョン配信をする様子を撮影したいのだとか。
こうなってくるともはやダンジョンは秘密でもなんでもない。そもそもまさ爺をはじめとする学校も把握していることだし、親も把握しているし、たぶん警察、もっと言えば政府も把握しているだろう。
つまり俺たちは「公然と野放しにされている」という状態である。本当は取り締まって中学生がダンジョンに入ってはいけませんと言えるけれど、面白いからそのままにされている、という感じだ。
これ、行き過ぎればスレッズの「大沢たかお祭り」みたいになるんじゃないの。スレッズはやっていないからわからないが大沢たかお祭りとやらで盛り上がっていたのは知っている。結局公式さんにお願いしてグッズ出そう! と言い出したバカのせいで沈静化したというのも知っている。バカだなあと思う。俺たちがいちばんバカな中学生だというのに。
その旨をいつメンLINEに放流すると、「確かに……」と、まひろから知らないキャラクターのスタンプが送られてきた。
「野放しにしてもらってるからダンジョン配信ができてるんだもんな……」
直言も少し冷静になったようだった。
「別に僕ら売名行為をしたいわけじゃないでしょ。テレビになんて出なくていいよ」
豪がもっともなことを言う。そうなのだ、俺たちはモテてお小遣いが入ってくることを期待してダンジョンに入ったのであって、有名人になりたいなどとは考えていなかった。いやいまではすっっかり有名人ではあるのだが。
まひろによるとダン中公式Xのフォロワーはどんどん増えていて、ユーチューブに転載された切り抜きからダン中を知った人や、インスタのストーリーズなどに転載されたところから知った、という人もいるらしい。
もうすぐ中間テストだし、いちど自分たちの立ち位置をハッキリさせよう。俺がそう提案するとまひろがまた知らないキャラクターのスタンプを送ってきた。あとで聞いたらなんとかいうVチューバーでまひろの推しだということだった。
◇◇◇◇
「ダン中、きょうは地上からの配信でーす」
みんなでいえーいと声をあげる。
「実はですね、テレビ案件が来てたんですよ。でも、わたしたちは売名行為をしたいわけじゃなくて、クラスで目立ててついでにお小遣いをもらえたら、という動機で配信を始めただけなんです」
『まひろちゃん三蔵法師みたい』
『まひろちゃんぐうの音も出ないほど聖人』
「なので、テレビ案件はお断りすることにしました! 僕たちは世の中に見逃してもらってダンジョン配信ができているので、あまり世の中に認められるのはどうかと思いまして。スレッズの大沢たかお祭りだって、公式に凸した人がいたからポシャったわけで」
『豪きゅん……』
『豪きゅん正しい……』
「話すことはもう一つあって、もうすぐ中間テストなので、ちょっと配信はお休みしたいのですが、いいでしょうか」
『いいよー!』
『直言くん中学生の本分をわきまえている』
「必ず復帰しますんで! よろしくオナシャス!」
『愛助、ノリがオタクなんよな』
『愛助、端的に言ってチー牛』
なぜ俺だけけなされているのか分からないが、とにかくしばしお休みをするという配信を行った。
「きっちり勉強して頑張らないとね」
まひろがさらさらの黒髪を耳にかけた。
「勉強ってそんなに必要? 授業受ければふつうについていけるもんじゃないの?」
「豪、それは将来東大理Ⅲを目指せる中学生のセリフであって、ふつうの中学生は家で勉強しないとついていけないんだ」
◇◇◇◇
配信お休みのお知らせの翌日、俺たちはまたしても第三相談室に集められていた。
まさ爺が「お前らの配信お休みは寂しいが中間テストだから仕方がないな」と前置きしてから、本題を切り出した。
「お前らには中間テストで、全員5科目の平均で70点以上を取ってもらいたい」
「……いいですけど、なんでですか?」
豪が「それくらい言われるまでもなく余裕」の顔をしてまさ爺に尋ねる。まさ爺はぐっと眉間に皺をよせた。
「市の教育委員会からのお達しなんだ。ちゃんと勉強できていることが確かでないままダンジョン配信をさせてはいけないと」
「つまり平均で70点以下の人がいたら、ダンジョンに公然と潜るのはお目こぼししてもらえなくなる、ということですか」
まひろが理路整然とそう答える。
「まあそういうことだ。でもお前らみんなそこそこ優秀だから、なんとか……」
「ならないっス! おれバカなんで! 平均70点なんて取ったことないっス!」
直言が悲鳴をあげた。確かに直言はいつもどの科目も58点とか69点とかそういう感じで、平均70点に届かないのだと言っていた。ここが中学校じゃなくて高校だったら直言は赤点とやらになって補習をさせられていたことだろう。中学生でよかった。
「うーん。先生としてはお前らにダンジョン配信続けてほしいんだよ。面白いからな。じゃあ……お前らの配信のファンで教員アベンジャーズを組んで、徹底的に勉強するのはどうだ?」
「教員アベンジャーズ」
思わずオウム返ししてしまった。なんだ、教員アベンジャーズって。
その日の放課後、またしてもまさ爺に第三相談室に呼び出されて、行ってみると国語数学理科社会英語の先生が一人ずつ、自分の仕事はどうしたのか待っていて、俺たちに徹底的に勉強を教えてくれるようだった。
平均点がつねに90点オーバーだという豪も、念の為あまり得意でないという漢字の書き順の問題を解かされている。まひろは理科、俺は社会、直言は数学と英語を徹底的に教わることになった。
「好きで得意な科目の一点突破という手もあるな」
直言に数学を教えながらまさ爺が言う。
「おれ、どの科目も苦手で嫌いっス……」
直言が断末魔の叫びのような口調で言葉を捻り出す。
その横で余裕の豪がしみじみと言う。
「こんなにいるんですか、僕らのファン」
「いるぞー。体育の中藤先生とか音楽の初村先生とか美術の篠田先生もお前らのファンだ」
まさ爺はジジくさい笑みを浮かべた。
そんな調子で徹底的なテスト対策が行われ、中間テストが始まった。その週明けにテストが返ってくる。俺たちはダンジョンに初めて踏み込んだときと同じくらいドキドキしていた。(つづく)
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