第4話
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用意されていた九七式戦闘機には、爆弾以外の武器はおろか、無線機さえも搭載されていませんでした。少しでも機体を軽くするためというのが表立った理由でしたが、背景に『もったいない』という真の理由があることに、否応なしに気付かされました。
とは言え、何をどう思おうと、どう感じようと、打つ手などはもうないのです。わたしは自分が目の前にある、古びた戦闘機そのものになったような気がしていました。全体が擦り傷だらけのそれは、事前に整備士によってエンジンをかけられていたのですが、低い唸りを上げながら振動を続ける様が、泣きたくとも泣けぬ、己と重なって見えたのです。わたしは何もかもをあきらめ、出撃する人間のために用意された、白布で覆われている卓上の
そこで蠅原はにっこりと笑った。
「と、そのように言えば格好がいいかもしれませんが、実際には、出撃の際に配られて服用した、五粒の『
そう言うと蠅原はにっこりと笑い直した。ぼくたちがドラッグをやっていることを、知っているとでも言いたげな微笑みだった。ぼくはルシと手話で合図して、亜門に突っ込んでいったときのことをふっと思い出した。もしもしらふだったとしたら、いくら追い込まれていた状況だからと言っても、あんな風に何の迷いもなく突撃していけただろうか? と。いつかルシの言っていた、『戦争をエスカレートさせた陰の立役者はドラッグ』という言葉も続けてふっと思い出した。
ほどなくして、と蠅原は続ける。「攻撃場所までの護衛と、事後報告用の一機を含む、十三機の戦闘機が飛行場を飛び立ちました。時刻は、午後二時ちょうどでございました。
しかし無念なことに、攻撃は失敗に終わりました。我々は飛行場から二時間ほど飛行した場所に位置する、敵国領土内の島に係留された、とある輸送船団を攻撃する命を受けていたのですが、目的地の直前で敵機と出くわし、攻撃を受けてしまったのです。わずか二機ではございましたが、こちらは爆弾以外の武器を一切搭載していないために、やむなく次々と撃破されていきました。唯一武器を搭載していた護衛用の戦闘機がどうにか一機を撃墜してくれたものの、残りの一機にあえなく撃破され、エンジン部から煙を噴きながら、斜めに墜落してゆきました。
気が付くと、味方の残機は、わたしのものを含め、四機のみという有様でした。やぶれかぶれになったわたしは、敵機へ機体ごとの体当たりを試みたものの、二百五十キロもの爆弾が障害となって成し遂げることができず、やがて背後を取られ、機関銃によって被弾するに至りました。しかし運良く銃弾が燃料油槽や発動機などの引火性の高い部位に当たらなかったこともあり、なんとか飛行することができておりました。とは言え潤滑油槽を損壊したようで、墜落は、時間の問題でした。わたしは敵機から逃れて不時着すべく、やむなく急降下を開始しました。
不時着の前に撃破されるだろうことは、間違いのないことと思われました。敵機が再び背後へと迫っていたからです。わたくしは、観念いたしました。しかし、直後のことでございました。残っていた味方の三機が、左右と斜め上方の三方より、
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