第10話 仲間の声
「ルナさん、俺…ちょっと先輩と話に行ってくるッス。」
怒った表情でハインズはそう言った。
「ハインズくん…気持ちはわかるけどだめだよ…無理だよ…今、あなたより…私よりニグリスに詳しい人と会話してる。しかも騎士の中で一番強い人同士の戦いなんか…」
「…ルナさんも、言いたいことがあるんスよね?」
「でも!」
「でもじゃ、ねぇッス…!!俺もさすがに我慢の限界ッス。俺も騎士なんで、悪人は許せねぇッス。でも、ちゃんとわけを聞きたいじゃないッスか…!相手は!俺の大事な憧れの炎の騎士ッスから!!!」
「ハインズくん……」
「…いってらっしゃい、実力差はどうにもできない問題だけれど…会話は一方的でもできるわ。もし返事が聞きたかったら相手の反応や表情を見て判断しなさい。」
「…ありがとうッス大先輩。」
「…わかった、わかりました。行ってきます。ちょっと、怒ってきます…!」
「大先輩は、行かないんスか?」
「…今の私には、何も言うことはないから。」
ハインズとルナは急いでニグリスとローベルの方に向かった。シャルは2人を見送ったあと、悔しそうな、寂しそうな表情をしてその場に立ち尽くしていた。
「ニグリス、テメェ今俺に手加減してるよな…!?」
「そうだよ、してるよ!!」
「俺が目覚めてすぐだからか?そういうの腹立つんだよ!!俺に全力出せよ!!!使えよテメェのお得意の炎を!!!赤でも青でもいいからよぉ!!」
「じゃあ使わせてみろよ…!!俺がどんな思いで今まで炎を使っていたのか知らねぇだろーがな!!」
するとニグリスの足場が突然凍った。
「先輩っ!!!俺は!」
「邪魔だどけ。」
ハインズの話を遮り、ニグリスはハインズを蹴飛ばした。それに続くようにルナも突撃してきた。
「ニグリス!ちょっと聞いてほしいの…!!」
「うるせぇんだよ…あっち行け!!」
ルナも同様に蹴飛ばされた。
ローベルはそれを見てまた怒りがこみ上げてきた。
「聞く耳ぐらい持ってやれよ!!!いつからそんなわがままで、身勝手になったんだ!!いつも、街の奴らには親身に話を聞いてたじゃねぇか…騎士の心を、いつものお前すらわからなくなったのか!!」
「今!!その話は関係ねぇだろうがよ!!」
「先輩!!聞いてくださいッス!!俺が騎士になった理由はある人に憧れて入ったんス!俺は、その人に助けられて、カッケェって思って入ったんス!!!俺もそんなふうになりたくて…騎士心が俺を変えてくれたんス!!それが、あんたなんスよ!!!炎の騎士、ニグリス先輩!!!」
ハインズは涙ながらにニグリスに語りかけた。
ニグリスは見もせず、何も言わなかった。
そしてルナも涙を流した。
「ニグリス…ずっと一緒に頑張ってきたもんね。私より頑張って努力して…いっぱい無理してきたんだよね…?私より強い。それは皆から頼られるから弱いとこ見せられないからだもんね。皆より優しいのは自分より辛くて苦しい思いをしてほしくないからだもんね?でも、ニグリスはローベル先輩に憧れた。それって、ニグリスより経験があるから、支えたいって思ったんだよね…私もね、ニグリスがいっぱい努力してるってわかったから、憧れてるし、大切だと思ってるんだよ…!!」
ニグリスはまた見もせず、何も言わなかった。
ニグリスの視界に映っていたのは、ローベルだけだった。
「…」
『ローベルは、強い。今手を抜いたらやられてもおかしくない。どうして、病み上がりなのにそんなに強いんだろうな。化け物だ。お前のほうがよっぽどゴリラだよ。
俺は昔から炎が使えてた。だから、皆から頼られてた。ある時、僕は自分より上の立場の人をたてるために負けたことがあった。そしたら、幻滅された。だから僕は、強くなければならなかった。ルナはその事を知らないはずなのに、なんでわかったんだろうな。ハインズはそんな俺に憧れてたのか、僕よりすごい奴なんていくらでもいるのに、変わってる。今、俺は悪人だ。この街から悪人が消えれば最後の悪人は僕だけになる。僕はこの騒動が収まったら死刑…最低でもずっと牢獄にいることになるだろうな。思えば、僕にとって騎士は天職だったな。僕を認めてくれる同僚と上司、僕より強い先輩。他の場所だと俺はきっと……そう思うと、騎士団には感謝しかないな。』
「…ニグリス、今お前は…何がしたい?」
「…?」
「その顔、頭ん中がスッキリしてきたんだろ?仲間の声は、やっぱり大事だろ。」
「…」
「もう、いいんだ。俺はこうして生きてる。ガキだってイタズラでお友達を押して転ばして怪我させる。よくある日常だろ?俺はあの夜、日常をしただけだ。お前は、俺とあん時の女を炎で燃やさないために適切な対処をした。おかげで女は今も生きてる。ありがとう。お前の手柄だよ。」
「ローベル……僕は、今どんな顔をしているんだ?」
「…いつものお前なら、疲れてても何食わぬ顔して、誰もきずいてないだろうがな。今のお前は、見てられねぇぐらい疲れて、悲しい顔してるわ。今にも泣きそうなぐらいな。」
「…ニグリス。僕は、確かに疲れたらしい。」
「だろうな、お前も強がってるだけのただの人間だからな。疲れんだろ。」
「…ローベル、僕は確かに間違えた行動をした。謝罪する。」
「…あぁ」
「…ローベル、僕を再び光に導いてくれてありがとう。」
「……あぁ…」
「ハインズ。」
「!!」
「いつも明るいのに、頑張って僕を怒ってくれて助かった。」
「はいッス…!!」
「ルナ。」
「…なに?」
「僕をいつも見てくれて、ありがとう。」
「…うん。」
ニグリスは、ローベル以外には顔を見せなかった。そして、感謝を述べた後、ニグリスは武器を置き大人しく拘束された。
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