第3話

「「「いらっしゃいませ!!」」」


店中に響き渡る声で店員さんが挨拶する。

何度聞いてもいい声だ。喉は大丈夫なのだろうか?


途中途中、知り合いのワーカー達と軽口を叩きながら、いつも座っている奥の席に行き着く。


腰背部にかけていた少々長い刀を机の端において、僕は彼女の対面の席に座る。

彼女は建物の隅と壁に自分の尻尾をリズミカルに打ち付ける。あまり良い癖ではないからいつか直させないとなぁ・・・・

僕は苦笑しながら、立てかけてあったメニュー表を机の上に広げる。


「さて、何を食べる?」

「肉!!」

「・・・・野菜も食べなよ?」

「え~~!!」

「え~~!!じゃありません」


穂を膨らませながら視線で抗議してくる。

ダメなものはダメ。


「大きくなれないよ?」

「!?ちゃんと成長してる!!子供扱い断固反対!!」

「残念ながら、僕にとって君は子供であり守るべき対象なんだよ・・・・いろんな意味でね」


小声で言った最期の言葉を聞き取った彼女は、首をかしげ心底不思議そうな表情を浮かべる。


「??どういう意味?」

「ん~なんでもないよ。話がそれたけどちゃんと野菜は食べなさい。不健康になって成長できなくなっちゃうよ?」

「・・・・フッ」


これ見よがしに他の男ワーカーと僕を見比べて、鼻で笑った。

あからさますぎる。しかも目線でも嘲笑しているようだ。

少しだけイラっとしたのは秘密。


「野菜食べないの?」

「僕は好き嫌いをしない大人だからね。野菜をちゃんと食べるよ」

「・・・・成長してないくせに」


わざと聞こえる程度の小声で僕の悪口とはいい度胸だ。

よし、受けたいクエストとやらでは、補助しないようにしよう。


それからも押し問答が続き、結局スカーレットは野菜無しで注文した。

それに対して僕は、「強引に口に突っ込ませる」という手法をとって、スカーレットを涙目にさせた。

・・・なんともむなしい勝利だ。


――――――


「お腹いっぱい!!」

「・・・・それは良かった」


あの後、彼女は食べまくった。

野菜の圏での腹いせか、頼んだのは軒並み、肉!肉!!肉!!!肉!!!!肉!!!!!

結果、出費が五桁・・・・五桁・・・・僕の分抜きで五桁・・・・成長期おそるべし。


僕が小金持ちで助かった。

待て、これからさらに買い物の予定が・・・・クッソ!!


鼻歌を歌い、今にも踊り出しそうなスカーレットを見ていると、僕の視界の端に一人の物乞いが見えた。

僕はその物乞いに近づき、財布の中の半分ほど与えた。 5桁後半ほどかな?


物乞いは逆さに置かれた帽子に大量の硬貨が入るを見て、僕の方を向いて神か天使を見る目をした。

手を合わせ、何度も何度も頭を振って感謝された。


長く気持ちがこもりまくった感謝が終わった後、僕は道の真ん中で待っていたスカーレットに合流した。


「・・・何も半分もあげなくてもいいじゃん」

「少しでも富んでいる者は貧した者に与えるのが当然なんだよ。・・・・持論だけどね」

「ふーん。ちなみにアタシの武器と防具は買えるの?」

「・・・・多分ダイジョウブ」


・・・どうかな?足りるかなぁ?

スカーレット・・・・ジト目やめて。


結局、宿屋に隠しておいた余剰資金を使うことになりました。

やめて!!僕が悪かったから!!尻尾で僕の尻を叩かないで!!!

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