40 それから
《カツン、カツン》とヒールを鳴らして大きな建物に女が近付く。
建物の入口には左右にずらりと従者が並ぶ。
「お帰りなさいませ」一斉に従者の声が響く。
従者の列を抜けた先には老人が待っていた。
「お帰りなさいませ、ご無事のご帰還を従者一同心待ちにしておりました」老人が言う。
側に控える女性従者が女の上着を脱がし、女は老人と建物に入る。
「疲れましたぁ、お腹がペコペコです」
「食事のご用意が整っております」老人は心得たとばかりに答える。
「それで…?」
「頼んでおいた件はどうでした?」廊下を自室へ向かいながら女が尋ねる。
「条件付きではありますが、およそ成功しております」
女の自室前に着くと老人は素早くドアを開けた。
薄暗いその部屋の黒い革張りの3人掛けソファには全裸の若い女性が1人、両手首と両足首を黒い結束バンドで縛られた状態で、黒いベルベット地の布で目隠しをされて震えながら座っている。女が《ドサッ》とその隣に腰を下ろし、靴を脱ぎ捨てた両足を全裸の女性の太ももに乗せ、踵で《グイッ》と股を少し開かせるとその女性は
「ひぃ」と小さく叫んだ。
女はその反応に満足して老人に微笑む。
「それは上々ですね、シㇲ」
シㇲはソファの前に跪き、脱ぎ捨てられたエナメルの靴を揃えながら微笑み返す。
「カルミラ様のご計画通りに」
カルミラ・ダーク・ブルーはこれからの計画に胸をおどらせながら生贄の首元に牙を立てる。その瞳孔は紅く妖しく光を放っていた。
Eclipsera Now エクリプセラ・ナウ 池ヶ谷 夏艸 @qlem
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