17.狂乱の、桜望中
ワアアアアッ──!
私たちが、校庭にかけつけると。
うっ、ウソでしょ……⁉ そこに広がっていた驚きの光景に、思わず目を見はった。
桜望中の、全校生徒150人が、校庭で取っ組み合いのケンカを、そこここで繰り広げているのだ。
「あんたなんて死んじゃえ!」
「お前こそ!」
「テメーなんか大嫌いだッ!」
「キサマに言われたくねぇッ!」
乱暴な言葉をさけびながら、お互いに蹴り合ったり、殴り合ったり。奇声を発しながら、無茶苦茶に校庭を走り回っている生徒もいる。
叫び声が凄まじく、その大音量ったらない。
思わずひるんでしまいそうなほどの、迫力と熱気。先生たちまで……!
戦慄の光景に、くらくらとめまいがしそうになる。
まさに、狂乱。桜望中が、大変なことになっている。誰が見ても、一目瞭然だった。
こんな、こんなのって……!
「ふふふ。こんなに乱れる我が学校は、創立以来初かも知れんな」
ぼうぜんとする、私、せと、ゆゆりん、一心くん。
まゆうちゃん、りっちゃん、あーりん、ねいろちゃんの前に現れたのは。
──陽月ケン校長先生!
そっか……。今のセリフで、全部わかったよ。この一連の騒動の黒幕は……。
邪神と手を組んだ、私たちの……桜望中の校長だったんだ!
「陽月ケン校長先生……なんで? なんでそんなこと、言うんですか?」
「雨宮みかるよ。お前は我が校始まって以来の元気な生徒会長だ。朝のあいさつ運動の時のお前の笑顔は、まるで輝くようだ。見るもの全員を明るくする。そんなお前が、【あみだぶつ】の仕事を引き受けたことは知っていた。なぜなら私は、邪神と手を組んでいたからだ」
ケン校長先生は続ける。
「私は若い頃、病気で妻を亡くしていてね。邪神は、自分と手を組めば妻を生き返らせてやると言ったんだ。妻のことを世界で一番愛していた私が。今、誰より逢いたい人間が妻である私が、その話に乗らないワケがないだろう?」
ケン校長先生の奥さんが、病気で死んだ……。それは……。
──奥さんは、『おばあちゃん』だよね。ケン校長先生、幸せいっぱいだっ!
私はいつの日か、そう思ったことを思い出して。
胸に、ぐっ、と込み上げてくるものがある。ケン校長先生は……、それでさびしかったのかも知れない。
でも、でも……死んだ人間を生き返らせてやるだなんて、そんなのゼッタイウソだよ!
ケン校長先生、邪神にダマされてる!
と、その時、「きゃああっ!」とゆゆりんの悲鳴が聞こえた。
「ゆゆりん!」
──この娘がどうなっても良いのか。
見ると、ゆゆりんの体のまわりに、黒いモヤが立ち込めていて、ゆゆりんをがっしりとホールドしているようだ。邪神は──ゆゆりんを人質にとって。大人しく退け、と言いたいんだろうか。
「現れたな! 邪神! お前は──邪神の、総大将か!」
阿弥陀如来サマが声を荒げる。
──「私は、みなさんについていきますわ。だって、とても面白そうですもの」
ゆゆりーん!(泣)
いつの日か、ゆゆりんがそんなことを言っていたことを思い出す。ゆゆりん、やっぱりだめだよ! 私の【あみだぶつ】の仕事に関わったばかりに……、そればっかりに、こんな怖い目にもあっちゃうんだからぁね⁉
「ゆゆりんさんを、放せ!」
私がどうしようかオロオロしていると、一心くんが、ビリビリとその場の空気を裂くようなめちゃくちゃ怖い声色でさけんだ。
思わずびっくりする私(とみんな)。
「ゆゆりんさんを傷つける者はオレが許さない。たとえそれが、誰であっても」
「一心くん……」
えっ? ええぇえっ⁉ な、なにそのセリフ!
なんか、事実上のコクハクみたいじゃない⁉
なにこの、場にそぐわない胸きゅん展開! ドキドキするんですけど!
一心くんが、どさくさにまぎれてゆゆりんにコクハク(っぽいの)するなんて!
んでもって、ゆゆりんもほっぺを赤く染めちゃったりなんかしていて、一心くんのコトがまんざらでもないってご様子で……。
「一心&ゆゆ! 盛り上がってるとこ悪ぃが、ふたりの世界はあとだ! 今はこの、桜望中の生徒たちを、なんとか制圧しねーと……! くっ!」
ふたりの関係性について思考を巡らせていると、取っ組み合いを止めようとふたりの生徒の間に入ったせとがさけんだ。
はっ! そうだ! 今は、この全校生徒たちをなんとかしないとだよねっ!
「阿弥陀如来サマ! おねがいです! 私にチカラを貸してください!」
阿弥陀如来サマは、ふ、と不敵に笑んだ。
「御意。──さあ、トクベツです! 私のチカラを振り絞り、祓いの札を、みかる氏に1万枚差し上げます! 『ごくらく★生徒会』のみなさんも、声を合わせて!」
阿弥陀如来サマはそう言って、自分の手のひらにおでこにくっつけて離した。
いっ、1万枚⁉ なにその数!
すごい、凄すぎるよ阿弥陀如来サマ!
「わかった! 私は、いつもみたいに念を込めて叫べばいいのね⁉」
まゆうちゃんとねいろちゃんを、救った時みたいに……!
桜望中のみんなは、生徒会長の私が、護ってみせる!
私は、もう迷うことなく、邪神を封印する覚悟ができていた。
気合いを入れるときの、いつもの無意識なクセ。
私は、うでの腕章を、グイッと肩までまくりあげた。
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