15.えっ!? わ、私!?
「生徒会のみなさんに、残念なお知らせがあります」
「「「「へ(え)?」」」」
ねいろちゃんが、再び学校に来てくれるようになってから、はや2週間。
この日も放課後の生徒会室で、プリント類を束ねる作業をしながら、「もうすぐ冬だねー」「だな」「ですね」「今年は一段と寒くなるそうですよ」なーんて、みんなで話していた時。
阿弥陀如来サマがおもむろに言った。
「みかる氏の魂が、極楽浄土にいけなくなるかもしれません」
うむぐっ! 飲んでいたお茶で、思わずむせかえりそうになる私。うっ! ていうか、ほんとにむせかえった! 胸が……苦しい!
「ゲホッ! ゴホゴホ! ゴッホゥウ!」
「みかるさん、大丈夫ですか?」
ゆゆりんが、トントンと、背中を叩いてくれる。ゆゆりん、ありがとね! っていうか、さ!
なっ! なんでええ⁉ 私の魂が、極楽浄土にいけなくなるだなんて!
そんなの、契約とちがーう! 私、【あみだぶつ】のお仕事、ちゃんと頑張ってるよっ⁉
阿弥陀如来サマは、私の心の訴えも無視して、非情にもこう告げた。
「今邪神に取り憑かれているのは……そう。まぎれもなく、みかる氏だからです!」
◇
どーーーーん。
私は、めちゃくちゃ沈んでいた。教室の自分の机に、ぐでぇーっと倒れるように突っ伏す。
だってだって! 私が邪心に取り憑かれてるだなんて!
死んだあと、私の魂が極楽浄土に行けなくなるかもしれないなんてぇ!(泣)
──阿弥陀如来サマが、あの夜語った、邪神の正体。
せと、ゆゆりん、一心くんの3人は、みんな、すっごーく真剣に聞いてくれたんだ。
たぶん、【あみだぶつ】の仕事のゆくえに、私の魂がかかっているからだと思う。
生徒会のキズナを感じて、嬉しくなっちゃった。それなのにそれなのにっ! こんなのってないよーっ!
うぐ、と涙ぐんでいたら、まゆうちゃんが私の机にやって来た。
「みかるー、あんた、ケン校長先生のカツラとって怒られたんだって?」
「へ? 私が?」
全く身に覚えのない話に、きょとん、とする私。
っていうか、まさかケン校長先生が、カツラだったなんて……。でもまあ確かに、ケン校長先生の頭は、頭頂部が変に盛り上がっていて、不自然な髪型だなぁ〜とは、思ってたんだよねー……ってそうじゃなくて!
「私、そんなことしてないよ⁉ ケン校長先生に確認してくる!」
ダッ、と校長室にかけていく私。ドアをノックして、「失礼します!」と中に入ると。
ケン校長先生が、鏡を見ながらカツラを気にして、せっせと直していたところだった。
私に気づくと、ケン校長先生は鬼の形相になって、ビシィッ! と私に指を突きつけた。
「雨宮みかる! お前は我が校始まって以来の無礼者だあぁあっ! 私のカツラのことを誰かに話してみろ! 即退学もんだああ!」
「はええぇえーっ⁉」
わわわっ! 確かに、なんか知らないけど、ケン校長先生、私のことでめっちゃ怒ってる!
退学⁉ カツラをとって……。
いくらなんでも、退学だなんて! そんなの意味不明ーっ!
私がいくらやってないって言っても、ケン校長先生はまるで聞く耳ナシのご様子。
結局、誤解はとけなかった。
◇
「はぁ〜〜〜……」
帰り道。今日は生徒会は休み。
理由は、とくに仕事がなくて、ヒマすぎるから。
生徒会は、たまにこんなこともあるんだ。
ため息をついてトボトボと歩いているのは私。
ふと、家の近所にある公園のそばを通りかかると。
5歳くらいの男の子が、一人で砂場で、お城を作って遊んでいる。その横顔は真剣そのものだ。
うわぁ、可愛いな〜。手、小さいな〜。大人はどこかな?
保護者らしき人を探そうと、あたりを見回して、一瞬私が男の子から目を離したその時。
ぎょっとするような、「うわああぁあん!」という盛大な男の子の泣き声が、その場に響き渡った。
「どうした⁉ タカシ!」
と、近くのベンチに座って男の子を見守っていたらしい、近所の高校の制服を着た、かなりのガッチリ体型のお兄さんが、あわててかけよる。
見ると、タカシくんは砂場の上で、横に倒れて泣いている。ほっぺには泥がついていて、転んだことをしめしている。
だ、大丈夫かな? ドキドキしながら見守る私。
幸いタカシくんは、転んだだけで、どこもケガしなかったらしい。お兄さんが確認してホッとしている。
良かったあ。見ていただけの私まで胸をなでおろす。
で・も! 高校生のお兄さんに抱き起こされたタカシくんが、次に放ったのはショーゲキの言葉。
「あのお姉ちゃんに、叩かれたー!」
ん? あのお姉ちゃん?
あたりをキョロキョロと見回してみるけど、お姉さんらしき人は近くにいない。……?
不思議に思う私。心なしか、視線が私に向いているような。
タカシくんが泣きながら、びしっと指さしたのは。
……えええぇっ⁉ 私⁉
「なんだとぉ⁉ オイお前! 俺の弟に何しやがんだー!」
高校生のお兄さんは、怒りのオーラをまといながら、ザッザッ、と一歩ずつ私に近づいてくる。
やっ、やだ! 私、そんなことしてないよー!
小さい男の子叩くとか……そんなことするワケないじゃん! ただ見てただけなのに!
「やっ、やってません! 私、決してそのようなことは……!」
怖すぎて、気づいたら私は半泣き。
胸の前で手をブンブンと振って、全力で否定する。
「いいワケすんじゃねえぇー!」
高校生のお兄さんの、ゲンコツが降ってくる。ひええっ!
「やめろ!」
突如響き渡った声に、高校生のお兄さんがピタ、と手を止める。現れたのは……せとだ!
「こいつはやってません。子供を叩くなんて、そんなマネするようなヤツじゃ決してありません」
私の前に立って、私をかばうかのように背を向けるせと。
まさに、理路整然といった、しっかりと、そして堂々とした態度でそう言って、守ってくれた。
「むぅ⁉ そうなのか? タカシ?」
「うそじゃないもん! あのお姉ちゃんに、ドンッて背中叩かれたあぁあ〜」
あぁあっ! せとの主張むなしく、またしても号泣するタカシくん(推定5歳)。
高校生のお兄さんは、怒りでプルプルと震えている。
「やっぱりお前がやったんじゃないかッ!」
まゆげを吊り上げて、一層怒ったご様子のお兄さん。
今にも私たちに殴りかかろうとせんばかりの表情で、こぶしをグッとにぎって見せてきた。
ひーん(泣)どうしたら誤解が解けるのー⁉
せとは、ケンカになりそうなこの雰囲気に、「ちっ」と舌打ちをする。
「逃げるぞ! みかる!」
「ほえ⁉ う、うん!」
高校生のお兄さんに、力で敵わないと思った私とせとは、その場から全力ダッシュ!
「待てえええ!」
高校生のお兄さんが、追いかけて来た! でもでもっ! 足の速さには自信があるもんねっ!
だって私たち、つい半年前までは、昼休みは毎日友達と鬼ごっこをする小学生だったんだから!
◇
はぁっ、はあっ!
ひたすら走り続けて、私とせとは、人気のない住宅街でやっと足を止めた。
「……っ! はぁっ! もう走れない!」
「さすがに、ここまでは、っは、追ってこれねーだろ……」
前かがみになって今にも倒れ込みそうな私と、電信柱に手をついて肩で息をするせと。なんとか振り切ったみたい……?
「ったく、何やってんだよ、みかる」
あきれたようにそう言うせと。そのおでこには汗がじんわりにじんでいる。そういえば。
「せと……私が何もしてないの、見てたの?」
「あ? ……さっきも言ったけど、みかるがそんなことするヤツじゃねぇって、わかってるから」
きっぱりとそう言うせとに、私は胸がジーンと熱くなる。
高校生のお兄さん、けっこう怖そうだったのに……。せとは、なんの迷いもなく前に立って、かばってくれた。
「せと、ありがとうね」
「ん。……てか、みかるがやってねーんだとしたら、ありゃなんだったんだ? みかるに似たヤツが、あの男の子の背中を叩いたのか?」
私に、似た人……。私は昼間、ケン校長先生に、私がカツラをとったと疑われてしまったことを話した。せとは少し考えてから、
「邪神のしわざじゃねーの?」
「今日はぬいぐるみは家に置いてるから……帰ったら、阿弥陀如来サマとおじいちゃんに話してみる」
──なんなんだろう、この感じ……。
何かが自分に迫っているみたいな、不気味で恐怖すら覚える感じ。私はなんとなく、胸がざわつく思いで家に帰ったのだった。
◇
次の日の朝。私はユーウツな気分で通学路を歩いていた。
はあ〜〜〜。昨日は、散々な目にあったよ……。
ケン校長先生のカツラの件もそうだけど、公園で、せとが現れてくれなかったらどうなっていたか。
昨日の夜、阿弥陀如来サマは、「しばらく気をつけて様子を見ましょう。邪神のしわざだとしたら、変に意識するのはキケンです」と言っていた。
これがほんとに邪神のしわざなんだとしたら、迷惑すぎだよっ!
私が何をしたっていうの……。……でもでもっ!
私は振り切るように上を向く。
沈んでたって仕方ないよねっ! もし本当に邪神のしわざなんだとしたら、『ごくらく★生徒会』として、のぞむところっ!
ヨシっ、もう切り替えていこっと! こうして私の持ち前のポジティブさが、今日も発揮されたのだった。
「おっはよー!」
教室の扉の前で、すれ違いざまに、他のクラスの生徒数人に元気よくあいさつする。すると、なぜかその生徒たちは目を伏せ──、気まずそうに、私を避けた。
「行こーぜ!」
「関わっちゃダメ!」
バタバタバタ、と私を無視して、大急ぎでかけていく。
────? 不思議に思いつつも、教室に入ると。
芸能人みたいに可愛い見た目が評判の、学校のアイドル、うららちゃんが、みんなに囲まれて、クラスの中心になって泣いていた。
「うららちゃん、どうしたの?」「なんで泣いてるのー」
可愛くておっとりしている性格のうららちゃんが、みんなは大好き。
もちろん、私も。うららちゃん、めっちゃ心配されちゃってるよ。どうしたんだろう?
気になって、私も心配していると。
くすん、と涙を拭いながら、うららちゃんが発したのは。ショーゲキの一言だった。
「昨日の放課後、雨宮さんに、トイレで髪を切られて……」
えっ、ええ⁉ トイレで、髪を切られて? 私が⁉
キッ、と私に向けられる、クラスみんなのするどい視線。
思わず後ずさりしそうなくらい迫力のある、確かな憎しみが込められた怖い視線だった。
見ると確かに、うららちゃんのキレイなロングヘアは、毛先が微妙にバラバラだ。一人の女の子が、ここぞとばかりに大声で叫んだ。
「私見た! 雨宮さんが、昨日スーパーにこにこで、商品万引きしようとしてたの! 見つかりそうになって、逃げてたよ!」
えええっ⁉ 万引き⁉ ちょ、ちょっと待って……!
「いじめに万引きって……サイテーじゃん!」
「雨宮さん、いいやつだと思ってたのに……ダマされたわ」
「それでも生徒会長かよ!」
そんなことやってないと、弁解する間もない。
まゆうちゃん、りっちゃん、あーりんは、なにか思い当たることがあるのか、何も言わずに、ただかたい表情をしてことのなりゆきを見守っている。
次々浴びせられる罵詈雑言と、全く身に覚えのない話に混乱する私。
「生徒会やめろよ」
────っ!
その一言に──体が、凍りついたみたいに固まっちゃって動かない。まるで、見えない針で、全身を縫い留められたよう。さわがしい教室に、先生が入ってきた。
他のクラスメイトたちは、みんな自分の席に座る中──棒立ちになったままの私に、先生は一言。
「ん? 雨宮、席につけー」
先生は、出席をとる前に、教卓の前でみんなに告げた。
「しばらく笹浜は休みだ。インフルエンザにかかったらしくてな。みんなも手洗いうがいはちゃんとして、気をつけろよー」
「はーい」と答えるみんな。
こんな時、せとがいてくれたら。
私は、着席した机の下で、両手をきつく握りしめながら、自分でも無意識に、そう思っていた。
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